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 稽古をつけるぞ、と。あの人が言った。

 ……俺に、言った。
 煉獄のように真っ直ぐ振る舞い、頼ることができず、物陰からあの人を眺めている。それが俺だった。

 あの人と俺は何もかもが違っていた。
 そんな当たり前のことを突きつけられるように感じるほど、憧れていた。

 あの人は誰よりも強く、美しく、気高かった。誰もに望まれそこにいた。恐れは力の代償である。恥ずべきところなど何もない人だった。
 俺はというと。
 弱く、醜く、浅ましく、臆病で。死ぬことをのみ望まれながら逃げ延び、こそこそと生きる、虫ケラのような人間だった。どうして教えが乞えようか。

「は、……。……あ、あの。俺は……」
「右目は生まれつきか?」
「ッ」
「気取られまいと鍛練しているようだが、甘い。視覚に頼らずより反射的になっている分、右側への反応が速すぎる(・・・・)。いいか、左右同時の攻撃に右は素早く処理したとして、本命が左であった場合それは隙を大きく」
「ま。待ってください!そんな、急に」
「だから」

 ズイ、と近づいてきた顔に息が詰まる。
 言葉を遮ってしまった。けれど、何のことはない。あの人の顔には怒りなどなく、いつも通り冴え冴えとするほどの美貌がそこにはあった。

「言ったんだ。事前にな」

 稽古をつけるぞ、と。あの人が言った。
 二度目である。
 有無を言わせぬ態度に俺は言葉を忘れ、黙って従った。

 それが昼下がりのことである。秋。落陽の早い季節。あの人が任務に赴くまで扱かれ、それはたった数刻ばかりだったはずだ。しかしどうしたことか。俺は歩くこともままならない有り様だった。
 情けないと思う余裕すらなく、あの人に呼びつけられた煉獄に支えながら、ヨロヨロと帰路に着く。

 そのときに聞いたのは、あの人に弟が“いた”らしいということだった。

「おとうと」
「ああ。……父が、お館様に教えていただいたらしい。俺も又聞きだ」

 鬼殺隊では珍しくない話を、すこし想像した。もしあの人の戦う理由がそうであるなら、やはり俺とは違う。なんと高潔な人だろうと思う。

「あの人なりに君を可愛がっているのかもな!」
「?何を……」
「弟君だ。案外似ているのやも」
「……馬鹿馬鹿しい」


 ──ああ、そうだとも。

 浮かれていたよ。ひとつも似たところなんてないと思っていたから、こんなありふれた黒髪でも、もしもと思って嬉しかった。
 目をかけてもらっているのかと期待していた。

 だから悔しいんだ。
 あなたはそんな風に、誰にでもニコニコするような人じゃなかったのに。

ゝ→←逆さ鱗の逆撫で



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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