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 あの人の白い羽織が赤黒く汚れ、私は麻痺した脳で、それをどう洗濯したものかと考えていた。姉の血だ。私がどうにかしなければ。家事は得意だから、大丈夫。きっと綺麗にしてお返しできる。
 だって私には、そのくらいしかできない。

 あの人の真っ黒な瞳は、ただ私のことを見ていた。
 できるな、と言われた。


「でき、ません」

 姉の肺を侵す、鬼の血。

 どうしたらいいの。どうしたらいいの?
 教えて。誰か教えて。姉さんを助けて。このままじゃ、姉さんが死んじゃう。お願い誰か、誰か、助けて。
 どうしてこの人は何もしてくれないの。
 あなたがやってよ。あなたこそが、やるべきでしょう。だってあなたは柱だ。私では届かない、その高みで、姉さんと同じ位に立つ人だ。

 私はあなたにも、姉にも、遠く及ばない。
 私にはできない。
 なにもできない。

「黙ってないでこたえてよ」

 ……何も…………


「姉さんを助けてっ!」


 首筋に冷たいものが当たった。
 それは無機質で、硬く、鋭く、人を傷つけるもののかたちをしていた。刀だった。私たちを案内してくれた隠の方々や、鎹鴉たちは、私よりよほど驚き、また怯えていた。

 私はワケが分からなくて、痴呆のようにあの人を見上げた。

「……私が」

 真っ黒な瞳が、ひときわ濃い色になっていた。
 怒っている。
 白皙の貌に何の色も滲ませないこの人の、怒りは。薄い膜の向こう、細い血管越しに瞳にあらわれていた。

「お前に、今すぐ姉の仇を討てと、そう言ったか」
「え……」
「空を飛べとでも言ったか?」
「何を」
目の前の小石を積め(・・・・・・・・・)と言ったんだ」

 そのとき、あの人の声は確かに震えていた。

「出来ることをやってきて、だからここにいるんだろう。それはお前が手に入れた力じゃないのか。誇るべき強さではないのか」


 ……そんな風に、考えたことがなかった。

 満足に刀を振れず、弱い私の。何も出来ない私がの、逃げ道だと思っていた。役立たずだと思っていた。突き放されたと、そう感じた。
 信じて、任せられているのだと、思うことができなかった。


 ──無事に一命を取り留めるも肺を病んだ姉は、柱を引退したのち、その病により数年で逝去した。あのとき、あのあと、震えながら立ち向かった私の処置が正しかったのか、今でも分からない。
 けれど姉さんは笑っていた。
 笑って、布団の上で亡くなった。

 それがすべてだと思う。

 だから刀を握らない今の彼女だって、私は何とも思わない。そういう強さもあることを、私はもう、知っているから。

 

ゝ→←ゝ



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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