-イナGO- 私は小さな猫を愛した。 -狩屋マサキ-

お尋ね ページ9

「じゃあAさん、ご飯食べたらまた来ますね」

「うん、待ってる。あ、でもちゃんと噛んで食べるんだよ？」

「わかってますって」






まるで母親かのような指摘に、顔がついほころんでしまう。

しっかりとAさんを確認してから、ゆっくりと木製の少し冷えたドアノブを押して

がちゃり、と重い音を鳴らすドアを閉めた。








「... ... ...？」

不意にリビングのある方向を向く。

リビングまでの廊下には、電話が台に乗って置かれ壁には子供が描いた絵。

そんな風景には当然合わない姿が、縮こまって映りこんでいる。








「...ヒロトさん、どうしたんですか。」

受話器を握り、膝を抱えて電話台の隣に壁に凭れながら座り込んでいる。

その姿は決して良いものではなく、瞳は虚ろにどこかを見ていた。

肌の色白さも手伝ってか、怖くなるくらい体調が優れないように見える。

弱めにぽんぽん、と肩を叩いてみると何度か頷いて答えて






「大丈夫」

と、だけ言うと立ち上がって俺を見下ろす形になった




「ヒロトさん肌青白いから本格的にヤバイかと思いました」

「あぁ...そう」





何だか酷く疲れているのか、はたまた電話で悪い知らせを聞いたのかふらふらしている。

がちゃり、と受話器を元に戻すと、思ってもいないことを聞いてきた







「...狩屋さ」

「何ですか？」







「...もう一回Aが手術する、って言ったらどうする？」










え、って漏れる言葉もなくて。

だって園に戻ってくる前にだって二回も手術して、それの前だって結構してる。

今日の状況を見て、体力のなさは目に見えてわかったのに。










「...するとして、誰がAさんを手術するんですか」

少し嘲笑するように聞いた。だって、この辺の病院の人はほとんど手術に参加した。

今度は外国の人か？それとも言うだけ言うようなヤブ医者だろうか？

どのみち嘲笑って断ってやる。















「...風丸、君。」

「は？」

...前言撤回。

何で風丸さんが、Aさんを手術する...？







「外国で何人もAと同じ人を手術して勉強したって。

全員回復傾向にあって、きっとAにも同じことができるから...って電話が来た」








ああ、よりによってなんでそんな。

別に風丸さんを信用してないわけじゃないが、いくらなんでも分が悪い。

俺からしたら断るなんて、不可能に近いのだ。

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