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俺が有無を言う前に、Aさんは笑った。本当に、本当に綺麗な笑みで俺を見つめる。

何でだ、貴方は先に怒るべきことがあるだろ、言いかけても言葉にはならない。


貴方がそんなに笑ったら、俺は笑うしかないんだよ。


「...凄く綺麗ですよ。Aさん」

「えへへ...ありがとう。」

「あ...ごめんなさい、俺が先に見ちゃって。風丸さんが普通先ですよね...」

「気にしないで、もう試着の時に呆れるほど着させられたの」

「そうなんですか?」


ただ何もなかったかのように会話する。俺にはもっと言わなきゃいけないことがあるのに。

貴方が塞いで言わせてくれない。まるでそれだけ避けているようだ。

でも、と確証もない気持ちを握って、俺はAさんをまっすぐ見た後、頭を思いっきり下げた。


「Aさん、ごめんなさい」

「... ...何が?」

「病院で...」

謝るつもりなんて、さらさらなかった。引きずって欲しかった。...忘れないでも、ほしかった。

この場所に来ることなど、あの時は予想すらしていなかったから。


「痛かったけど、私は嬉しかったよ」

「...え?」

思ってもいない言葉に間抜けな声が落ちる。[顔を上げなよ]、と貴方が促した。


「私はそんなにも君に愛されていたってことでしょ、悪いことじゃない」

「いいことでもないですよ」

「物を善し悪しで決めちゃいけないの。愛に良いも悪いもないんだから」


そういうと、Aさんは一歩前に出て、俺を抱きしめてくれた。

ふらりと震えるベールが鼻先に触れて擽る。首筋からは変わることない甘美な香り。

それ以上に、何ヶ月経とうと忘れられなかった体温が体に巡ってきた。


「マサキ君、私を好きでいてくれてありがとう。」


耳元で響く、悔しいほど優しくて大好きな声。

初めて会った時から聞き続けた、自分のそばにいるという確証を持ち合わせた音。





「...でも、もうお別れだね」


ぐずっ、と耳元で崩れた声が聞こえる。俺じゃない、確かにAさんから聞こえる。

最初は黙って聞いていたものの、だんだんと息が上がって、生暖かい涙が伝っているのがわかった

泣いている。

...過剰かもしれないが、俺のために?


ああ、悲観してたのは自分だけじゃなかった。この人も愛してくれてたんじゃないか。

己の手を、骨が砕けんばかりに握る。なんて愚かなことをしていたのだろう。


数分経って、するりとAさんは俺から離れた。

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設定タグ:イナズマイレブンGO , 狩屋マサキ , シリアス   
作品ジャンル:泣ける話
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夜月桜 - な、泣ける。・゜・(ノД`)・゜・。 小説でこんなに感動したことないです(>_<) (2017年3月29日 20時) (レス) id: 889de71093 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» こちらこそよろしくお願いします!よろしかったら他作品もよろしくお願い致します。 (2015年1月3日 20時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - よろしくお願いします! 更新頑張ってください!! (2015年1月3日 16時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» コメントありがとうございます!もうすぐラストなので、この雰囲気を保ちつつ納得がいくエンドをかけるよう頑張りたいです。更新も張り切りますので今後もよろしくお願い致します。 (2015年1月2日 15時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - すごく良かったです!読んでるとき涙がでてきてもう大変でした笑 更新待ってます^^ (2015年1月2日 15時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:佐奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/e2e95d529a1/  
作成日時:2014年9月20日 20時

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