第11話 ページ12
Aside
コートに立ち尽くすお兄ちゃん。その目じりにうっすら涙が浮かぶ。立ち直らせるように笠松先輩が蹴りつけているのを見ながら、私はその場で膝をついていた。
「Aちゃんも泣いてる……試合に出てたのは黄瀬くんなのに…」
「おにぃ…ちゃ……ごめ、なさっ……私が、"読み負け"なんて…」
「おい、Aっ!お前もこっち来い!」
笠松先輩が名前を呼ぶ。それでも私はそこから動けなくて、ファンの子に心配させてしまっていて。動かなきゃいけない。お兄ちゃんの横に居るのは私じゃなきゃダメなのに。
「Aちゃん、立てそう?笠松先輩のとこまで、体預けてもいいから」
「ごめん…なさいっ……せんぱい…」
「アホ。"リベンジ"、お前なら分かんだろーが」
「………」
試合の挨拶も終わり、私はお兄ちゃんに着いて体育館の水道に移動する。すっかりいつもの表情に戻ったお兄ちゃんが、私の頭を撫で続けていた。
「もう泣きやめって。オレの実力、いつの間にか落ちてたみたいっス。それだけ、お前は悪くない」
「……お兄ちゃんは、落ちてないよ。私も読み負けてはいないの。でもね、読み負けたの」
「……A、お兄ちゃん難しい話は分かんねぇっスわ」
「火神くん"だけ"なら、お兄ちゃんだけでも勝てる。リンクした私達なら、余裕なの。けど、違った」
だからこそ、私の読み負け。
「火神くんはテツヤくんがいた。それに加えて、私は最初からベンチに居たわけじゃなかった。いくらお兄ちゃんでも、2人に1人で勝てるわけ、ないよ」
「そう…スね」
お兄ちゃんが私の髪を耳にかける。その仕草にくすぐったさを覚えていると、聞きなれた声が聞こえてきた。本来ここにいるはずのない、声が。
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作者名:ちくぜんに | 作成日時:2019年10月9日 21時