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──自来也said
鬱陶しいほどの人の量でいつもは不快にしか感じないそれを、今は全く感じないほど気分がいい。
今までは真後ろを歩いていたAは、ワシの真横を歩いている。
左手でワシの服の布を掴み、右手には昨日買った首飾りを嬉しそうにコロコロと触っていた。
真っ直ぐな横線を引っ張ったように閉じられた唇は、緩い弧を描いていてそれを見ただけで自分の頬も緩むのが分かった。
Aと共に過ごすようになって数ヶ月。
自分でもこんなになる理由は分からないが、とにかくAに執着していた。
ただこいつに興味があっただけだったのに。
Aは絶対に甘えてこない。
マメが潰れ、靴擦れで流血し、それを見かねたワシがおぶるか?と聞いても必ず断られた。
初めだけだろうと思っていたが、それは何日たっても変わらなかった。
辛いのがバレないように必死に耐えるその姿は、勇ましいとは思えず、逆に辛く感じた。
宿では、ワシを気づかって先に風呂に入ってくださいと譲らず、自分からは絶対に入らない。
ものをねだるなんてことはもっと無かった。
もっと自分に甘えてほしい。この感情が沸き立つ理由が分からなかった。そしてこの感情が何なのかも、30を過ぎているというのに分からなかった。
それが分かったのはある活気のある商店街を歩いている時だった。
「ちょっとそこのお父さん!娘さんのためにこら買ってかないかい?」
「かわいい娘さんだね!今なら1本まけとくよ!」
「お?かーちゃん抜きでお使いかい?いい魚入ってるよー!」
ことごとく家族だと間違われた。
斜め後ろを歩くAを横目で見るが全くの無反応。
忙しそうに小さな足を動かして、ぎゅっと握りしめられた着物をみて、周りの音や風景を見れるほどの余裕がないのが分かった。
家族扱いされているのに全く気づいていないようだった。
家族、か。
ぱっと頭に浮かんだ映像。
それはあまりにもリアルだった。
我に返ると、すぐそこにあったのは肩を並べて歩く親子の姿。その手はしっかりと繋がれ、笑顔で顔を見合わせている。
その姿がさっき脳内に映し出されたものとダブった。
---あぁ、そうか。そうだったのか。
やっとこの感情の名前が分かった。
---ワシはいつの間にかAに愛情を抱いていたのか。
その日からワシは、Aに笑っていてほしいと思うようになったんだ。
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作者名:きゃおる | 作成日時:2022年9月24日 1時