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「ふざけんな」



思わず、ぎゅっと目を瞑った

中也が太宰さんを殴る

視界を横切った中也の手を見て、咄嗟に、直感的にそう判断したから



「気安く触れられてんじゃねえよ」



けれどどうやら予想は外れた、みたい

中也の呟きを聞くが早いか、目を閉じて暗闇の中に居る私は体がぐらりと揺れるのを感じて

ふわっと香ったのは、中也の___




「え、な、はい!?」




目を開けば、今度は中也の腕の中

逞しい腕が私の後ろから回されており、中也の匂いと温もりとに体全体が包まれて

さっきまで私を抱き寄せてた人の、不満げな表情が前方に見えた




「そうやって無防備だから、変な男に付け回されんだろうが」




中也の低い低い声は、すぐそばから降ってくる

思わず震えた肩には気付かない振りだ、その肩を少し痛いほどに抱き寄せた中也の手にも

近い、というか、中也との間には、距離も隙間もありやしない



「変な男ねえ、私にしてみれば、君がその筆頭なのだけど」

「はあ? 莫迦云ってんじゃねえぞ」



相変わらず、会話の方は私を置いてけぼりだ

二人だけが意味を心得る言葉は、喧嘩腰で交わし続けられる、そんな中




「だって、下心丸出しじゃないか、君」



その太宰さんの微笑は

いつも、人の弱みを揺さぶる時、人の心の隙を弄ぶ時に見せるもので

中也の苛立ちが一層膨れるのが判って



「し、したごころ……?」



私が聞き返したことに、中也が少し、焦りのようなものを見せたのも判って



「何のことですか?」



お陰で脳内の疑問符は、更に膨れ上がった

試しに目線を送ってみても、わざとらしく肩を竦めるだけの太宰さん

それに痺れを切らした私は



「ちょ、中也? 下心って何?」



素直に中也に問い掛けたのだけど



「……手前は知らなくて良い」

「何でよ、気になるじゃん」

「うるせえな、何でもねえよ」



どうして誤魔化されるのかも、下心の真意も、全く判らない

こんな風に抱き締めてるくせして、教えてくれる素振りは全くない



「良いから、太宰の言葉には耳を貸すな」



遂に逸らされてしまった顔

ついでに帽子を深く被り直した中也からは、表情も何も見取れなくなってしまう

「さっぱり判んない」と、拗ねた子供のようにそう吐き出せば




「Aちゃんが鈍くて良かったね、中也」




また、太宰さんがくすりと笑った



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ライム - めっちゃ最高でした!!中也かっこよすぎてつらいです!こんな最高の作品を生み出してくださってありがとうございます!!!! (2022年12月26日 17時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
なかはらあお(プロフ) - はじめまして、作品見させていただきました。お話の構成も内容もとても素晴らしく感動しかありません、どんぐり様のこれからのご活躍心より期待しております。長文失礼致しました。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: a71351843d (このIDを非表示/違反報告)
藍音 - 凄く面白かったです!私の名字もナカハラがよかった... (2018年2月7日 0時) (レス) id: a82b5889f9 (このIDを非表示/違反報告)
- 完結おめでとうございます!!きゅんきゅんしました…! (2018年2月1日 22時) (レス) id: c5a450a737 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - こんな時間に一気に読んでしまいました〜。眠たいのにドキドキが止まらなくて寝付けそうにありません!!(>_<) (2018年2月1日 2時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:どんぐり | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年9月13日 23時

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