53話 ページ7
「やっぱりAのこと、知ってるのか?」
さすがに懲りて離れたところにいる立弥に聞き返すと、佐藤太郎のことを話していたときと同じテンションで話し始めた。
「そりゃもちろん!姉貴はよくここに来て、掃除とか料理とか洗濯とかしてくれたんすよ!」
「それ他人の空似じゃないか?」
あまりにも信じられない内容に思わず口が滑った。Aを見れば覚えがないと必死に目で訴えてくる。
何を考えているのかぎゅうと俺のコートを掴む。
(でも、家に来て家事をしていくってことはまさか…)
「Aちゃん、戦兎君と付き合ってたの!?」
「それはないです絶対ないです」
紗羽さんの驚いた声に、さっきの俺と同じぐらいの間の短さでAが答えた。
確かに俺も違うとは言いかけたけど、そんな全面否定しなくても。
「付き合ってたとかそういうことじゃなかったと思いますけど…いい友達、みたいな?あ、でも兄貴がタイプだって言ってました」
「顔が」と付け足す立弥と一瞬目を合わせた後、Aが白い目で俺を見る。
「いや俺知らないし…」
別にAの顔なんてそんなに意識して見たことなんて…ない。たぶん。
「ぱったり来なくなっちゃって、心配してたんすよ〜」
そう言う立弥に、Aはあからさまに嫌そうな顔を見せた。
「その姉貴っていうのは、「川瀬A」で間違いないんだな?」
「絶対そうっす!」
「絶対」までつけて答える立弥にAの顔がより一層暗くなる。
名前まで一致してしまうと否定のしようもない。
俺と同じように目眩がしたのかまた顔色が悪くなるAをもう一度座らせていると、紗羽さんが話を進めた。
「ねえ、佐藤太郎がいなくなったのっていつ?」
「あ〜…確か9月5日っす」
大事な先輩がいなくなった日だからか、すぐに答えてくれた。
そして、それは俺にとっても重要な日だった。
「俺がマスターに拾われた日だ…」
去年の9月5日。俺は確かにその日に拾われた。
日付まで一致しているとなると、こっちもこっちで否定のしようがない。
「っじゃあ、お前の言う"姉貴"が来なくなったのはいつだ?」
立弥に少し食い付き気味にそう聞く。
立弥は佐藤太郎のときと同じようにすぐに答えてくれた。
「最後に来たのは兄貴がいなくなる前の日っすね。兄貴と一緒にいるのかなーなんて思ってたんすけど、本当に一緒にいてよかったっす!」
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みお(プロフ) - すごく面白いです! (2022年10月25日 14時) (レス) @page10 id: 06fabb07b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:デリート | 作成日時:2018年12月26日 1時