病気とは言わないで２

行軍ヲ成功サセヨ　４ ページ27

ソウイチロウと名乗ったその人は、私を別の誰かと勘違いしているようだった。

「えっと、その……」

「それにしてもどうしてこんなところに？ 会うのは一体いつぶりだ？」

「その」

「父と母は元気にしているか？ あぁ、もっと聞きたいことや話したいことがあるのに私には時間がない。もう行かなくては……」

「あの」

「すまないハル。私は行くよ。どうしても成し遂げなくてはいけないことがあるんだ」

「……」

「大丈夫だ、必ず帰ってくる。２日……、長くても３日で帰ってくる。絶対に成功させてみせるから、待っていてくれ。私は……」

「私は、ハルじゃない」

　私がそう言うと、その人は一瞬だけ寂しそうな顔をしたけど、すぐに困ったような感じで私に笑いかけた。

「何を言っているんだ？ お前はハルだろう？ そうだろ？」

「ごめん、なさい。私は……、ユカ、っていいます」

「ユカ…………」

　掴んでいた手がゆっくり離れた。

「本当に、ハルじゃないのか？」

「……はい」

「じゃあ、本当のハルはどこにいるんだ？」

「分かりません……」

「…………そうか、悪いことをしたな。私には行くところがある。やらなくてはならないことがある。それでは」

　そう言ってその人は私の横を通って、扉を開けて図書室から出ていってしまった。

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