拝啓××様 4【銀魂】

最期の願い事 ページ41

「苦しいです、すごく」



「こんな世界…要らねェだろ」



高杉さんはそんな事を言っていた。大切な人を失って、自分から大切な人を奪った世界を憎み、壊そうとした。私は…世界を憎いとまでは思わなかったが、今なら高杉さんの苦しみは解る。


「今でも高杉さんは間違っていると思う気持ちに変わりはありません。けど…今の世界は高杉さんの目にどう映っていますか？」


どんどん脆く崩れ去る。高杉さんが望んだ事が高杉さんの手とは関係なく叶えられてゆく、そんな様を見て彼は一体何を思うのだろうか。

高杉さんは窓の外を見つめ、そして此方を振り返ると「あまり良い気はしねェなァ」と小さな声でそう答えた。


「もっと…壊す実感が欲しかった。この憎しみをぶつけるのに不足はねェと思ったがな…案外簡単に壊れていくんだなァ、世界ってのは」


全てが白く染まってゆく虚構のハリボテの世界に今更何かをするつもりは無い、高杉さんはそうハッキリと口にする。きっともう彼が何かをしようとしなくとも、この世界にも『明日』なんて約束されていないのだろう。


(私と…同じです)


自嘲を込めて笑みをこぼす。
もう、時間がない。あとどれだけ残されているのか、それは私が一番良く分かっている。自分の体の事は、自分が一番良く知っている。


「高杉さん」


昔から悲しい目をする人だと思っていたけれど、それは五年経っても変わらない。見上げた先に在る彼の瞳は何処までも真意なんて物は見えたりしない。

本当に彼が見舞いだけで来たのか、あの質問をしたかったからなのか、それ以外に何か罠でもあるのか。それはもう分からないけれど、罠でも何でも良い。私はゆっくりとこう言った。


「お願いが、あるんです」


高杉さんは「ほォ」と興味深気に笑った。私もまさかこんな形で彼に願い事をするとは思いもしなかった、けれど彼が適任だ。


「何だ？言ってみろ」
「私を…ここから連れ出して下さい」


そう告げれば高杉さんは「真選組の奴等に頼めねェ事情でもあるのか」と訝し気な顔でそう言った。やはり高杉さんは頭が良い、これが罠かと疑っているのだ。


「皆は今、すぐそこの廊下に居ますよ。あまり大声で話すと見つかってしまいます」
「…お前は何がしてェんだ、捕まえる気はねェみてェだな」


自ら皆の居場所を言うのだから当たり前である、捕まえたりなんてしない。私は一つ息を吐いてこう言った。


「今日が…私の最期なんですよ」

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