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てれかくし ページ17

「国木田さん、探偵社はあっちの方角だ」


自動扉を潜り、次へと足を踏み出そうとする国木田のベストを掴み、子供は国木田が向かおうとする方角の反対を指さした。


「ああ、知っている。良いから着いて来い」


険しい顔でずんずんと進む国木田に首を傾げつつ、子供はその後を追った。



□□□



「おお、」


子供は手狭な店内を見回し、国木田を振り返り見た。淡い橙色の照明は陳列された商品を優しく照らし、黒焦げ茶の木目調の棚には様々な品物が雑然と、しかし一定の秩序は守って陳列されていた。子供の記憶の限り、そこは初めて見る場所だった。

眼鏡のブリッジを忙しなく押し上げながら、国木田は独り言を飛ばすように子供に語りかけた。尚下記の台詞は長いので読み飛ばして構わない。


「生活雑貨に関しては大量生産品が並ぶホームセンターでは、安価ではあるものの矢張り品質は落ちるのだ。
俺の経験によると、常に持ち歩く物こそ拘り良い物を持つべきで、例えば俺のこの手帳は、手帳界隈の巨匠カーライルが手ずから綴じた物のみを使っている。拘る事で何が起こるかと云うと、第一に心持ちが違う。第二に、手に馴染んだ物を使い続ける事で異能の精度も向上し、牽いては社への貢献となる。理想的な業務には理想的な──」


手帳界隈とは何だろうと考えながら、子供は国木田のみを見つめていた。話が終わるまで待つ心算なのだろう。国木田は眉間の皺を濃くし、斜め下に視線を逸らした。


「……手巾ぐらいは、少女らしく可愛らしい物を持たせてやろうと思ってだな」

「なあ耳が赤いぞ、国木田さん」

「照れてなどない!」


反射的にそう返し、国木田は自分が墓穴を掘った事に気が付いた。耳から顔にまで及んだ朱を隠すように手で顔を覆う。子供は国木田の挙動を不思議そうに観察していたが、すぐに店の商品に興味が移ったようだった。


「あっはは、国木田さん。鹿の生首だ」

「生首ではなくインテリア雑貨だしそれは買わんぞ……」


子供が鹿の頭部の剥製を見て初めて笑おうと、今の国木田にそんな事に構っている余裕はなかった。


子供は気づかない。個人の物を持つことが許されない環境でも、手巾くらいは隠し持っておけるだろうと云う国木田の考えも、この用事の為に国木田が大幅に予定を変更した事も知らないままだ。多くの人と向き合った事が無かったから、気づけない。

転ぶなよ→←国木田さんと買い物



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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時

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