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鍾愛 29 ページ30

「本当に良かった」


ドクドクと心音が聞こえて私は今中也さんの腕の中にいるのだと確信する。


驚きも束の間、幸福感が体全体を支配する。
何て心地良いんだろう。
私自身を一人の人間として大事に思ってくれている。その事実に私は泣きそうになる。

私は気がついたら彼の背に腕を回していた。


『中也さん…ありがとう』


彼の腕に力が込められる。しかし優しさに包まれているように穏やかで温かいものだった。


「A。手前が太宰の野郎に取られる前に云いてェ事がある」

『…はい』


温もりが離れると真剣な光を宿した彼の瞳に射抜かれて私は居住まいを正した。


「手前が重傷を負って、目覚めるかどうかわからねェと聞いたときは心臓が止まるかと思った。

探偵社の治癒異能を使って外傷を治しても意識を取り戻すかは本人の体力次第だ何て云われた。

幸い、目を覚ましたがな…手前を失う事を考えたら恐ろしくて堪らなかった」


私は目を伏せて聞く。彼が何を云いたいのかは正直良くわからなかった。その為次に彼の口から紡ぎ出される言葉を待つ。


「返事を待つなんて云ったがもう一度云わせてくれ」


みしりと寝台が軋み、彼の綺麗な指が私の指を絡め取り、真っ直ぐな光の差した瞳に私を映し出した。


「A、愛してる」


ぎゅっと、私の手を握る指先に力が入った。夢を見ているかのような気持ちで彼の深い真水のようにとろりとした瞳を見上げる。

彼は私より沢山の女性を見てきた筈。かっこよくて、強くて、優しくて…私たちは本来釣り合わない人間だろうに。

…信じても良いのだろうか。


『私で、良いんですか…?』

「当たり前だろ。A以外考えられねェよ」


その瞳に吸い込まれる。彼は私をいつだって思ってくれた。側で支えてくれた。…味方でいてくれたし大事にしてくれた。

感情が溢れて止まらない。それでも私の想いは一貫して同じだ。

もう、断る理由なんて無い。



『…私も、中也さんを愛してます』



彼の優しい瞳がさざ波のように揺れた。私達は暫くの間時間を忘れて見つめ合った。やがて彼はもう一度私を包み込むと頭に手を置いてくしゃくしゃと撫でた。


「絶ッ対ェ幸せにする」

『お願いしますね』


嬉しいような、恥ずかしいような。
私たちはおもむろに離れると次に頬に手が添えられる。


そっと目を閉じて…何処からとも無く唇を重ねる。


窓から差し込む優しい正午の光が二人を照らしていた。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 文スト , 太宰治   
作品ジャンル:恋愛
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あい - ??? (1月29日 23時) (レス) id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 更新中でしょうか?ワクワクです (1月29日 20時) (レス) @page43 id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - これ太宰さんどうなっちゃうんでしょうか……あと文才ご凄くありますね! (1月22日 11時) (レス) @page31 id: 68fda9e290 (このIDを非表示/違反報告)
- こういう系あまり読み続けられないんですがこれは一気に読めちゃいました…!文章能力すごい高いですね…尊敬…更新待ってます!頑張ってください! (8月26日 15時) (レス) id: efb8355445 (このIDを非表示/違反報告)
ライム - こういう物語って大体中也ポジの人は振られちゃうので、この展開メッチャ好きです!私が中也推しなのもあるかもですけど、wとにかく更新楽しみにしてます! (2023年3月25日 3時) (レス) @page42 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:桜雪 | 作成日時:2020年1月25日 21時

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