鍾愛 28 ページ29
何かに呼ばれた様に目を覚ます。
随分と長い間眠っていたであろう感覚があるのは身体が痺れているからであろう。
少々怠さが残る身体を起こすと栄養剤注入の点滴の管が腕を通っている。怠さ以外は特に異常は無く、あの任務は夢だったのかと錯覚させる位に身体には傷一つなかった。
何が起きて此処で寝ているのかはわからないが、自分がいる場所は何度か世話になったことがある為にわかる。ポートマフィアの拠点ビルの医務室だ。準幹部と云う役職のお陰で医務室の設備はかなり良い。
お風呂に入りたい、と先ず感じて点滴の管を外して立ち上がろうとする。床には数的ポタポタと血が垂れたがすぐ止まるし後で掃除すれば良いだろう。
…が、足腰に殆ど力が入らずに床へ倒れる様な形で座り込む。
どれだけ寝てしまっていたと云うのだと自分の非力さにもはや憤りを感じる。何とかせねばと自力で立ち上がろうとすると、刹那部屋の暗証番号を破って扉が開く。
「はっ!?ちょ、てめっ!何してる!」
其処に立っていた人間は、上司である良く聞き慣れたテノールの声の持ち主…中也さんだった。
彼は驚いた様に目を見開き私の方へ走ってきて支える。
『あの、仕事は…』
「あ?大人しく寝てろ阿保」
『ゴメンナサイ…』
口の悪さ増してませんか、という言葉を飲み込む。今そんなこと云ったら本気でキレられそうなので自粛しようと思う。
彼は軽々と私を抱き上げて寝台に座らせた。
取り敢えず、聞きたいことが山ほどあるが先ずは迷惑をかけたと思うので謝罪から入ろうとするとなぁ、という低い声とともに私の両手が彼の大きな掌に包み込まれた。
「…もっと自分を大事にしてくれ、頼む」
縋るようなその声に私は焦る。一体、どれほど迷惑をかけてしまったのだろうか。どれだけの利益を逃して損害を負わせたのか…其れは計り知れない。
『…すみませんでした』
「手前が俺の前から居なくなるんじゃねェかって心配した」
『申し訳ありません』
「考えたら不安で休憩と勤務時間外は此処に通い詰めた」
『ごめんなさ……えっ…!?』
中也さんの言葉に数回パチパチと瞬きする。そんな、迷惑どころの騒ぎじゃない。如何落とし前つければ…土下座?否、辞職?…も、もしくは物理的に首が飛ぶかもしれない…
如何償えば良いんだ私は、と青ざめていると突然温もりと彼の愛用している香水の匂いに包まれて思考が停止する。
「本当に良かった」
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あい - ??? (1月29日 23時) (レス) id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 更新中でしょうか?ワクワクです (1月29日 20時) (レス) @page43 id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - これ太宰さんどうなっちゃうんでしょうか……あと文才ご凄くありますね! (1月22日 11時) (レス) @page31 id: 68fda9e290 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - こういう系あまり読み続けられないんですがこれは一気に読めちゃいました…!文章能力すごい高いですね…尊敬…更新待ってます!頑張ってください! (8月26日 15時) (レス) id: efb8355445 (このIDを非表示/違反報告)
ライム - こういう物語って大体中也ポジの人は振られちゃうので、この展開メッチャ好きです!私が中也推しなのもあるかもですけど、wとにかく更新楽しみにしてます! (2023年3月25日 3時) (レス) @page42 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜雪 | 作成日時:2020年1月25日 21時