百六十七 ページ24
その時、私は初めて平助さんが誰かを斬ったところを見た。
命を奪ったことに何の感情も動かされない、その後ろ姿は以蔵兄さんによく似ていて、助けてもらったお礼を言うべきなのに、喉に何かが詰まったように言葉が出てこない。
「Aっ、大丈夫か!?―――千鶴、おまえ斬られたのか!」
「だ、大丈夫だよ!このくらい・・・」
そういうと雪村さんは平助さんに傷を見せないよう身をよじった。
・・・山南さんが羅刹となった時と同様に、傷がとうに癒えていることを感づかせないようにしているのか。
さりげなく雪村さんの傷を遮るように間に立ち、私はやっと動くようになった口で一言お礼を言った。
「ありがとう平助さん、助けてくれて」
「あ、ああ・・・ごめん、こんなとこ見せちまって」
「ううん。あなたの仕事はわかってるつもりだから、気にしないで」
私たちの間に微妙な沈黙が流れたところで、土方さんたちがこちらにやって来て、事態は収束した。
事情を知っている土方さんは私に雪村さんの手当と、今夜は二人で土方さんの部屋に寝るよう指示し、羅刹の処理にかかった。
予想通り、雪村さんの傷はほとんど消えてなくなっていた。
治っていることを皆にばれないよう、細い腕に包帯だけ巻くと明日から使うための三角巾を用意した。
「明日からしばらくはこれで腕を吊っていた方がいいかもね」
「はい。・・・Aさん、ありがとうございます」
「いいんだよ、雪村さんにはお世話になりっぱなしなんだから!」
わざと明るく言い放ったが、雪村さんの表情は硬く、険しい。
どうしたものかと彼女にかける言葉を考えていると、雪村さんは顔を上げて綺麗な瞳で私を見た。
「Aさん、私は人間ではないのでしょうか?」
「・・・どうして急に?」
「以前から、私は風間さんたち"鬼一族"に同胞と呼ばれてきました。それにこの能力・・」
また返す言葉に困ってしまった。
私は彼女が鬼である事は、お千ちゃんから聞いている。そしてそれを私の口からむやみに伝えないと"約束"している。
「鬼かどうかはわからないけど、それってそんなに重要な事なのかな?」
「え?」
「あなたが何であれ、雪村さんである事には変わりないんだから。―――ここは新選組、身分も何も関係のない場所だから不安に思う事ないって」
「Aさん・・・―――はい!」
我ながらつたない励ましだったが、彼女の不安は少し薄らいでくれたようだ。
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いちご牛乳二世(プロフ) - 本当に申し訳ないです!お返事いつでも待っております! (2020年12月7日 4時) (レス) id: 7192c58253 (このIDを非表示/違反報告)
いちご牛乳二世(プロフ) - 私自身あまり裏語薄桜鬼に詳しくないのもありますが岡田似蔵さんが気になりすぎて岡田似蔵さんオチが見たいなと思ってしまいまして…(苦笑) (2020年12月7日 4時) (レス) id: 7192c58253 (このIDを非表示/違反報告)
いちご牛乳二世(プロフ) - 最後まで読ませて頂きました!とても良かったです!今は未だ正式に完結はしていないのでしょうか?していらっしゃらないのであれば唐突なのですが完結致しましたら基本的な設定はそのままのこの話とは別物として岡田似蔵中心の物語が見たいです! (2020年12月7日 4時) (レス) id: 7192c58253 (このIDを非表示/違反報告)
沙夜(プロフ) - まんささん» お久しぶりです(^-^)私も喉風邪ひいてしまって、今は落ち着いたんですけど、一時期熱も出てしまいました(T_T)そうですね、気をつけましょうね(><) (2017年10月14日 17時) (レス) id: e978245002 (このIDを非表示/違反報告)
まんさ(プロフ) - 沙夜さん» またまたお久しぶりです!最近喉風邪をひいてしまいました(汗) お互い体には気を付けていきましょうね(><) (2017年10月14日 17時) (レス) id: 4838eaea5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まんさ | 作成日時:2017年1月3日 19時