【浦島坂田船】 たった1度きりの青春を、貴方と。 【歌い手】【短編集】

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最悪、マジで最悪や。

女の子を泣かせてしまった。

でも、それより、俺のせいであの子が悪く言われたことが最悪や。

何が守るや、かっこ悪い。

プライドはズタズタだし、もう、疲れてしまった。

気分は落ち込むし、明日になったら面倒なことになるのは分かりきっている。

「俺の言い方も悪かったかもせんけどさあ…！

しゃあないやんなぁ、あんな酷いこと言うんやもん。
殴らんかっただけ、偉すぎるよなあ」

自分にブツブツ言い訳をしながら、足元の小石を蹴っ飛ばす。

いつもなら一直線で家に帰るところだけど、今日は俺にとって幸せな日だ。

トイレの鏡で前髪を少し整え、校舎の一番端の教室へ。

行こう、そこにはいつだって、彼女がいるから。


少し鈍いところが好きだ。

俺がこんなにもアピールしているのに、勘違いじゃないのに、“勘違いだろうなあ”って顔で苦笑いする彼女をみると、あまりの幸せさに口角が上がってしまう。


意外と甘え上手なところが好きだ。

数学が大嫌いで、定期テスト前に泣きついてくるところが世界で1番可愛い、と思う。


ちょっと顔をクシャッとさせて笑う顔が好きだ。

俺の顔をみて微笑む顔をみると、もっと笑わせてあげたくなる。


引っ込み思案だけど、俺の前では明るく笑ってくれるところが、好きだ。


あと、くしゃみをした後のちょっと恥ずかしそうな顔とか。


手鏡を見ながら髪の毛をとかしているところも。


でも、絵を描いてるときの君が、一番綺麗で俺は好きやなあ。



早く会いたい。

そんな気持ちが募って、前髪が乱れるのも構わず走る。

陸上部やサッカー部のスカウトを蹴ったのも、君に会いたいから。

美術室の扉を開ける。

校舎端の一番日当たりのいい教室。

夕日に照らされながらキャンバスを描いてる彼女がみえる。

なあ、俺が黄色好きって言った時から、いっぱい黄色い花を描くようになったよな。

今日のキャンバスに描かれているのは、綺麗な向日葵の花束を持った女性。

“センラくんが黄色が好きって聞いてから、向日葵が好きになったの。”

“なんで向日葵なん？”

“＿＿センラくんは、向日葵みたいだから。”

それって、そういうことでいいんかな。

やっぱり絵を描いてる君が、一番好きや。

微笑みながら筆を動かす彼女の微笑みは、キャンバスに描かれた女性によく似ていた。

もし君が向日葵の花束を受け取る時が来るのなら、俺に渡させて欲しい。

俺は、向日葵のような君の笑顔に惚れたんだから。

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