【浦島坂田船】 たった1度きりの青春を、貴方と。 【歌い手】【短編集】

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ある日、坂田くんはいつも通りの大きなお弁当とパン2個を抱えて、昼食の時間に私のクラスへとやってきた。

そして開口一番言ったことは

「なあなあ、文化祭、一緒に回らん？」

だった。

『え、と…それは、』

一体、どういう。

だって文化祭を一緒に回るということは、つまり、そういう事だ。

「やから、シフト教えて」

『えっ』

「え？」

『え？』

「え、回ってくれへんの」

『いや回るけど』

「やんなあ！」

いやいや、回るけど。

ポケットからぐしゃぐしゃのシフト表を取り出して私に押し付ける坂田くん。

私も大人しく自分のシフトを伝えて、坂田くんのシフトをメモした。

『坂田くんとこなにやるの』

「たこやき。
クレープと揉めたけど。

そっちは？」

もうパン2つを食べ終えた坂田くんは、大きなお弁当の蓋を開ける。

わあい、肉いっぱいやあ、と嬉しそうな声をあげた。

それから、何も言わない私に怪訝な目を向ける。

『…………』

「なにやるん？」

『コスプレ喫茶』

「ふーん。
なんのコスすんの」

『まだ衣装注文してない。

こん中から選ぶの。』

見せたスマホ画面には、格安サイトのコスプレ一覧。

幼稚園児のスモッグ、執事服、メイド服、チャイナドレス、黒猫、などなど。

坂田くんはふんふんと興味津々な様子で画面を凝視し、それからある商品をタップ。

「俺これがいい」

『………よりによって、これかあ』

坂田くんがにこにこでタップしたのは、チャイナドレス。

いや、ロングなだけマシだけど。

だって、スリット結構深いし、私最近太ったし、こんなチャイナドレス何人の子が着るの、私友達と同じ黒猫にしようと思ってたのに＿＿＿＿＿という思考が頭を巡った、けど。

「え、坂田あんたチャイナドレス派？」

「おん。
チャイナドレスめっちゃ好き〜〜
ロマンやん」

「あーじゃあ、もう決まりじゃん。

注文しとくね」

通りすがりの友人が、画面をタップ。

注文決定。

『えっ』

「えっ」

『私チャイナドレス1人なのやだ！』

「いや、私らもチャイナにするからあんたもチャイナドレス着ようよ。
てか着ろ。」

シンプルに、脅迫だ。

ひどい、ひどすぎる。

「お願い着て〜〜おねがいや〜〜！

たこ焼きおごる！」

『坂田くんまで……』

坂田くんの夢であったらしい私のチャイナドレス姿は、こうして実現したのであった。

坂田くんは友人にまんまとスタバを奢らされていた。

幸せそうだったのでよしとするけど。

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