外伝 【壱】 夏祭り ページ46
「ねぇ、今夜は暇?」
「なんだ!誘っているのか!」
木刀を杏寿郎に向けて振るい、それを軽々と避けながら、低姿勢で懐に入られ、下段から上段に向かって振り上げられる。
木刀は私の頬擦れ擦れを突き、この隙を逃すものかと前に出る。
「似たようなもの……ね!」
重心を前へ移し、そのまま勢いよく、杏寿郎の脳天目掛けて振り下ろす。だが、素早く木刀で弾かれ、後ろに跳び上がり距離を取る。
「Aからの誘いとは珍しい!任務があるが早急に片付けるとしよう!」
前かがみになり、足をバネのようにして距離を詰められ、木刀が手首に振り下ろされる。良くて青紫色の青タンに、悪くて骨にヒビが入るだろう。
「期待して待ってる!」
下手にはでない。上からくる衝撃には、下から攻撃したとて威力が増すだけ。川の流れに逆らう魚よりも、流れに乗る魚の方が速いのと同じ。
上は隕石、下は地面。ならば左右は?
杏寿郎の木刀が私の手首に届く寸前に、必要最低限の動きで避け、そのまま、こちらに勢いよく突っ込んできた杏寿郎の方に振り下ろす。
だがそのとき、腕を掴まれたかと思えば、そのまま強い力で引っ張られた。
「すぐ戻る!」
ほんの数年前の私なら、こんな事は冗談でも言えなかったろうに、今は違う。恥ずかしさもあるし、抵抗も全くないわけじゃない。
けど、悪い気はしない。
「ご武運を」
「うむ!」
抱きしめられたままでいると、ポカンと口を開けてこちらを凝視する千寿郎が目に入った。
見られた……!
「そ、そろそろ離して」
「人目は気にするな!」
「気にするの!」
抵抗も虚しく、結局、杏寿郎が任務に向かう直前まで抱きしめられたままだった。
杏寿郎に解放されてから、町へ向かった。
今夜は年に1度の夏祭り。打ち上げられる花火を見上げながら口付けを交わせば、冷めぬ愛を培うと噂で聞いたのだ。
「熱心ですね」
付き添いで来てもらった千寿郎は、どこか呆れた様子で私の隣を歩いている。
「この町の夏祭りは意外と有名なのよ?今まで気にしたことはなかったけど、普通の夫婦は一緒に花火や出店を見て回るんだって!素敵だと思わない?」
「義姉上が楽しそうで何よりです……」
夏祭りというワードにはしゃぐ義姉に、千寿郎は嫌な予感がした。別に、2人か喧嘩をするのではないかとか、そんなことではない。
彼が心配したのは、無自覚の独占欲を持つ兄の方だった。
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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時