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今日も今日とて話が弾んだからかいつの間にかキバナが家を出る時間が迫っていて、慌てて用意を手伝う。いつものジャケットを脇に抱えて、大きな背中の241の数字が日差しを浴びてクッキリと浮かび上がっている。それぞれの朝の運動も終えてすっかり力の入ったポケモン達は、とうに腰のボールホルダーに集合していた。
大きな手荷物には、ドラメシヤのみんなが入ったモンスターボールが詰め込まれている。これからのポケジョブからのひとり立ちに向けて少しずつ私から距離をおく訓練の一つで、最近は半分くらいの時間を彼の職場であるナックルジムで面倒見てくれている。大変ではないのかと聞いても、バトル施設らしく広いフィールドに検診設備もあるし、他のドラゴンポケモンも数多く在籍しているから性格や個性を掴むにはかえってちょうどいい、とのこと。うっかりすり抜けてまた迷子になったりしないか、フードが嫌だと駄々こねていないか。中々心配なところも多いけれど、私よりもはるかに育成に慣れている人たちばかりなので、もう厚意に甘えることにしている。
ジムのこと考えておいてな、どこかで予定空けるようにするから、と言い残して家主は外に繰り出していく。家の中には私とドラパルトだけが残され、テレビはもうついておらず余韻も残っていない筈なのに、熱意と興奮がまだ尾を引いている感じがした。
トップジムリーダーと呼ばれた彼の呼称が、ようやく意味を持って腑に落ちる。いや、ウソだと思っていたわけでは勿論ないが、ナックルで一番強いトレーナーだと言われて、分かったつもりでも実感できていなかったと言うべきか。たくさんの彼の実績に対して改めて尊敬すると共に、なぜそんなに凄い人がこんなに助けてくれるのだろう、という思いは変わらず大きくなるばかり。
理由は簡単、私が帰る家がなくなったからだ。閑散としたリビングで、定位置のソファの上で大事にしまっていた書類をめくる。何処にもいくところが無くなった私に、新しい住処が見つかるまで自分の家に来ないか、と誘ってくれたキバナ。先の問いに彼は、困っている人を庇護するのもジムリーダーの務めだから、と答えた。だから自分のところが嫌ならどこでも好きな街を選択できる、カブさんのところでも、それ以外でも。そう言われても、私はキバナとナックルの街以外の選択肢は考えられなかった。これ以上のやさしさに甘えてしまうのは、と竦んだ心を追い越すほどに、見知らぬ場所はもう嫌だった。
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作者名:aks | 作者ホームページ:http://alterego.ifdef.jp/
作成日時:2023年3月21日 20時