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物心ついたときにはAがいた。
容姿端麗な子だ。
噎せ返るような墨の匂いまで感じられる漆黒の髪の毛は三つ編みがよく似合ったし、金と紅の刺繍が施されたベールによく映えていた。
同じく真っ黒な瞳は黒真珠のようで、鏡のように映った全てを反射していた。
すらりと伸びた白い手足は、この土地の日の光と土、そこから生み出される色彩豊かな織物を鮮やかに着こなしていた。
活動的...嘘。
野生児みたいな奴だ。
親戚に可愛がられて着飾られたかと思ったら、「天月、行くよ!」と僕の手を無理矢理引っ張ってするすると木を登り始める。止めようとしてももう遅い、こっちが混乱している間に気がついたら頂上まで登り詰めて舌を出して笑っている。
煽られてしまってはこちらも黙ってはいられない。
「っA、降りて来なよ!」なんて体裁を保ちながら、僕も木を登っていく...二人とも(二重の意味で)地に足が着いたときには、もうせっかくの衣装はズタボロだ。
それでも。
田舎だからこそ赤く赤く赤く燃える夕日を背に、二人で馬鹿みたいに笑っていた。
枝を振り回して。着いた汚れもそのままに。
それでも夕焼けに染まったその瞳と笑顔はどうしようもなく綺麗だった。子供ながらに何かを知ってしまうような顔をしていた。
そんな汚い身なりで。だけど綺麗だと思ってしまうのなら。
―――もっとちゃんとすれば。きっともっと綺麗なのに、なんて思ってしまうけれど。
それでもそれを認めたら、Aが僕の知っている彼女ではなくなる気がして。
今見ている彼女が、綺麗なのだと。
馬鹿みたいに、笑っていた。
村のしきたりも神様への祈りも。
自分の気持ちも彼女の気持ちも。
何一つとして、知らずに。
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しろもん* - すごく良い作品ばかりで、ひたすら感動していました。私は、最後のお話が好みです。でも、本当にどの作品も素晴らしかったです。 (2020年1月21日 23時) (レス) id: 36bbb34c6c (このIDを非表示/違反報告)
アヤノ(プロフ) - 涙がボロボロで止まらなかったです。描写もどのお話も素晴らしく、Bバージョンもとても楽しみです。 (2020年1月19日 0時) (レス) id: b204067585 (このIDを非表示/違反報告)
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