第5話 ページ5
「ごめんね。雨続きで撮影がちょっと長引いちゃって、来週まで帰れそうにないの」
翌朝。クリスは慣れない夜更かしをしたため寝不足の寝惚け眼を擦りながら、母との電話に応じていた。
姉弟の母であるリンゼー･ソーンダイクは業界でも有名な大女優であり、ドラマや映画の撮影、インタビューやらで引っ張りだこ。そのため家を空けることが多かったが、今回の撮影は普段より早く終わる。そう言っていた矢先のこの電話だった。
「その代わりと言っちゃあ何だけど……お土産ね、先に航空便で送るから。あなたの好きなコットンキャンディも、お姉ちゃんの好きなコーヒーもあるわよ」
「ありがとう、ママ。お姉ちゃんも喜ぶよ」
「そういえばアリスお姉ちゃんは？あの子も元気にしてる？」
「うん、元気。今は学校の準備してる」
「そう。なら安心ね」
執事のタナカが二人分の食事、そして銀の皿に入ったドライのキャットフードが乗ったトレイをベランダのテーブルに手際よく並べていく。それを横目で見たクリスは何かを決めたように口を開いた。
「ねえママ。実はママに謝らなきゃいけないことがあるの」
「ん？なあに？」
「ママとの約束……。12時過ぎ外に出ちゃダメってことと、大人用プールに入っちゃダメってこと」
「まあ！そんな時間に泳いだの？」
「ああいや、そうじゃなくて……」
まさか青くて喋るハリネズミが落ちてきたなんて口が裂けても言えない。どうしようかと口をもごもごさせていると、クリスの手から受話器が取り上げられた。
『野良ネコちゃんが溺れちゃってたから、クリスと助けてあげたのよ』
「そうなの……って、アリス！久しぶり、学校の方は順調？」
『ええ、勿論よ。せっかくお父さんとお母さんに入れさせてもらったんだもの。さっきの件に関してはそういう事。ごめんなさい、約束破っちゃって』
「いいわ、ママ怒らない。2人揃って優しいのね」
ありがと、と話を着々と進めていくアリスは、隣で胸を撫で下ろしているクリス、そして屋根の上でジト目でこちらを見ているのはいきなり猫呼ばわりされたソニック。アリスは彼に視線を移すと苦笑しつつもウインクを飛ばした。これはバツが悪い時の彼女のふざけた癖である。
「じゃあ、そろそろ切るわね。頑張るのよ、お姉ちゃん」
『……ええ。撮影頑張ってね、お母さん』
電話の最後には受話器越しのキスで終える。これはソーンダイク家のしきたりのようなものだった。
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A - すごく素敵な作品でとても続きが気になります！続編もお願いしますっ！ (2022年4月24日 22時) (
レス) id: 1c577920f9 (このIDを非表示/違反報告)
憂象 - めちゃくちゃ面白いですね！！！！再度ハマるきっかけになりました！！ありがとうございます！！！(><＠) (2022年3月11日 21時) (レス) @page50 id: 63f42a208b (このIDを非表示/違反報告)
にーご - すごく面白いです！続編も期待しています(●´▽`●) (2021年2月7日 21時) (レス) id: 1e32eaca6c (このIDを非表示/違反報告)
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