056.優しいから ページ11
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「んじゃ、ちゃんと顔冷やしとけよ」
動揺することなく何事もなかったかのように立ち去ってゆく。
状況が飲み込めなくて、落ちている氷嚢を拾うことも忘れてただ立ち尽くす。そして唇にそっと手を当てる。
壁にもたれて天井を見上げ、激しく動く鼓動を感じながら目を瞑る。
意味がわからない。
大体、友達に戻って欲しいって言ってきたのはそっちじゃん。
なんで、どうして今になってこんなこと。
私が意地でも友達に戻ってやろうと決意したところで、こんな揺さぶってこないでよ。
「なんなのあいつ……」
メガネのくせに。
二回も振ったくせに。
氷嚢を拾い、少しその場で熱くなった顔を冷やしてから体育館に足を運んだ。
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「なーんか元気ない?」
「え?普通だよ」
「嘘だ」
「……」
「悩み事、あるんでしょ」
成宮の鋭い発言に電話越しでもドキリとした。彼には余計な不安を募らせまいといつも通りのトーンで話していたつもりだったのだが。
「俺でよければ聞くよ?」成宮の優しさが心に溶けて無性に泣きたくなる。
でもここでその気遣いに甘えてしまえば、間違いなく彼を傷つけることになる。
言えない。
言いたくない。
こんなに手を差し伸べて希望の光を見せてくれる彼を、闇に放り込むような真似はしたくなかった。
「……じ、実はさ、勉強ばっかで最近疲れちゃって」
「……」
「そうだ成宮!なんか面白い話してよ」
多分成宮は私が悩み事を隠しているのに気づいた。それは不自然な沈黙が物語っている。
しかしこれ以上追求することなく「じゃあ、この前樹にしたドッキリの話聞かせてあげるよ」と楽しそうに言ってきたので「聞きたい!」と声を弾ませてベットに横になった。
ごめん、成宮。
本当のことは言えない。
御幸にキスされた、なんて。
それがちょっとでも嬉しく思ってしまった、なんて。
優しい成宮には言えないや。
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ましゅまろーず(プロフ) - 麻奈さん» 成宮くんはなんだかんだで葉月の幸せを願ってすれ違ってしまいました…書いてるこっちも辛いです(ノ_<) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - ホイップクリームさん» 自分の気持ちを誰かに伝えるって本当に難しいですよね…ホイップクリームさんに共感していただき嬉しいです!高校生編では結局葉月はどっちともくっつきませんでした、、続編でもホイップクリームさんとお話できると嬉しいです!これからもよろしくお願いします(*´-`) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
麻奈(プロフ) - 鳴いぃぃ…(´;ω;`)そんな鳴も私は好きだよォ…(;Д;)(;Д;) (2017年12月9日 8時) (レス) id: 4a91041800 (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - いつもお話していただいてすごく楽しいです! これからも仲良くしていただけたら嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - なんかもうすごいです…上手く言えなくてすみません…!! 人に想いを伝える事の難しさが表されていてとても心に響きます!ましゅまろーずさんの作品本当に皆の想いが伝わってきますね!私には出来ません…すごく尊敬しています!! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましゅまろーず | 作成日時:2017年8月12日 11時