【◇】ばつこい

005.広がる曇り空 ページ5

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思わず素直に悩みを打ち明けてしまった後、成宮は不自然な間を空けてから「…あのさ」と真剣な口調で話を切り出した。





「一也から何か言われた？」





意味がよくわからなくて、頭の上でクエスチョンマークが踊りながら「何かって何？」と訊き返す。


そして再び流れる不穏な沈黙。
成宮は普段なら自分の思ったことはすべて口に出してしまうような、単純な__よく言えば素直な子だ。

だからこうして伝えることを躊躇しているような、戸惑ってるような、そんな態度を表すなんて珍しくて。



影に潜んでいた暗い雲が、心を侵食していく。

きゅっとスマホを握り締め、縋りつくように「成宮は、何か知ってるの？」と問い詰める。その声が微かに震えてしまった。





「……いーや、何も知らない」

「ほんとに？」

「ほんとのほんと。てか俺他校だし？仲良いとはいえ、一也のことなんてわかんないよ」





それもそうか、と安堵してしまう私は、気づきかけた現実から目を背けただけだったんだろうな。





「一つ提案があるんだけど」

「…うん？」

「一也と別れて、俺とつきあうってのはどう？俺、あいつより良い男な自信はあるよ」





直後に小さく小さく聞こえた、「…それに、葉月の泣くところなんて見たくねぇし」という意味深な言葉に私の胸は不安にどきりと音を鳴らす。


御幸と別れないと、私が泣く？
……意味わかんない、全然わかんないよ。

そんな遠回しじゃなくて、もっと簡単に言ってくれなきゃ。




できるだけ平静を装い、「冗談やめてよ」と軽く笑ってみせれば、成宮もあははと笑って「ちょっとからかっただけ」といつもの調子で言った。




いくら笑ってみせても、
成宮が笑ってくれても、

私の抱えた不安が消えてくれることはなかった。









「葉月先輩！新チームになったのにいつまで顔出してんすか！！」

「せっかく先輩が来てくれたのにその言い方はないでしょ？沢村くん」

「そう言って毎日来てるじゃないすか！いい加減その顔も見飽き__いてっ！」





相変わらず元気だけが取り柄な沢村くんに、先輩という存在の大切さを教えるために愛の蹴りを食らわせる。


引退した後、勉強は午後にやるとして、午前中はマネージャーの仕事を手伝いにきてて。

そしてその口実で、後輩、御幸に会いに来てるんだ。






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