【◇】ばつこい

038.遅すぎだろ ページ38

.


御幸


.






「なあ御幸」

「ん？」

「最近の葉月さー、お前とつきあってた頃より楽しそうじゃね？」





倉持の容赦無い一言が何故か胸の奥深いところに突き刺さる。俺は平静を装い、頬杖ついて「そうか？」となんともないように受け流す。

立って俺の机に手を置いていた倉持は、空いている前の席に腰を下ろしたまま続ける。





「さっき葉月に会ってよ、成宮とお家デートするって自慢してきたんだよ」

「へー」





幸せそうでなによりだ。
鳴なら葉月を悲しませたりはしないだろう。

あの二人がうまくいってるのは喜ばしいこと。




なのに。

そのすぐ側にある煮え切らない想いは何だ？




葉月と鳴がつきあう。

それを、一番に望んでいたのに。





(…もう他の男を見れんのか？)









俺が好きだって泣きそうな顔で伝えてきたくせに。









「……っ！」





頭を過ぎったその言葉に自分自身で驚き目を丸くする。一瞬だとしても、なんてことを考えたんだ俺は。


むしゃくしゃして頭をかく。

倉持は何か言いたげに口を動かしたが、丁度よくチャイムが鳴って自分の席に戻っていった。




嫉妬、独占欲。

葉月とつきあっていた頃には決して抱えることのなかった感情。

つきあってたときは葉月が俺しか見てないのを知ってたから、そんな黒い感情とは縁がなかった。


鳴のモノになりそうになった途端、なんて遅すぎだろ。





……いや、違う。





嫉妬しかけたのは仲の良い友達が誰かとつきあうことに寂しさを感じたから。…それだけだ。


好きだから、とか。
恋愛感情からきたものじゃない。





(お家デート……か)





葉月と鳴が幸せになれますように。

なんて、理想を語って本音を押し殺して。





.

039.ヒーロー→←037.変化

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す