【◇】ばつこい

020.戻らない ページ20

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全国にファンがいる将来有望の成宮と、

何の特徴もない平凡な私。



そんな私を好きだと言ってくれた。心が動かされないわけがない。ただ、気持ちが彼の方に確定してくれないのはまだ心の中にあいつがいるから。




もう忘れたい。

もう思い出したくない。


御幸のことを思い浮かべると、彼とセットで蘇るのはあの夏祭りの日。バツゲームだったと明かされたときのこと。

完全に黒く塗り替えられてしまえば楽だったのに。
霞んだ思い出の裏に、2人で笑いあった日々がちらついてもどかしい。

胸が痛くて、戻りたくて。



バツゲームだったと告白される前の、何も知らなくて幸せだった私が羨ましい。





「葉月ちゃーん、手ぇ空いてるならこっちの色塗り手伝って」

「はいよー」





高校生活最後の文化祭はもう目の前。

筆を持って大きな看板の前にしゃがみ、ペンキで色を塗っていく。


去年は御幸と倉持と2Bで文化祭を回った。憎まれ口を叩きつつもなんだかんだ言って仲の良い彼らと一緒にいるのは楽しくて仕方なくて。

今年は私だけ違うクラスだし、御幸とは別れて気まずくなっちゃったし、顔を合わせることはまずないだろうな。




一通りの作業を終え、んっと伸びをする。
カーテンの空いた窓から淡い橙色の光が差し込む。

放課後の教室はなんだか切ない香りがした。









「……お、しっかり練習してる」





夕方のグラウンドで元気よく活動しているのは野球部。文化祭の準備期間だからって関係ない。彼らが優先するのはいつだって野球。(ただし、最優先なのは勉強)


こうしてグラウンドの外から野球部を見ていると、ああ代替わりしたんだなって実感して。

嬉しいのか、寂しさなのか、
よくわからない感情が渦巻く。



もうそろそろ潮時かな。

時間は止まらない、戻らない。

ゆっくりと、けれど確実に進んでいく。



御幸の望む未来に私がいないのなら、

過去を羨んでくよくよ落ち込み続けるのはやめよう。






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