【◇】ばつこい

019.好きになって ページ19

.





この選択が正しかったのかはわからない。





「……もしもし？」





ぎしっと椅子の背もたれにのしかかる。勉強のせいで下ばかりを向いて凝った肩をぐるぐる回しながら、電話をかけてきた彼の次の言葉を待った。





「葉月！つきあって！」

「……いきなりだね」

「だってもう告ったから隠す必要ねーし、グイグイいくしかないと思ったからさ」





顔を見なくても伝わってくる彼の優しさに触れて、また泣きたくなる。どうしてそんなに助けてくれるのって聞いたら困るかな。




公園で成宮に告白されたとき、ほんの一瞬だけ答えに迷った。
御幸と別れて傷心中だったから、誰かの温もりを無意識に求めて傷を癒したいと思った。


中学時代は成宮ばかりを見てきたから、
成宮が良い奴だっていうのは一応わかってるつもり。

わがままで強引で俺様基質なところもあるけど。



そんな彼に告白されて嬉しくないはずがない。





「成宮、ありがとう。でもこの前も言った通り、やっぱつきあえない……ごめんね」





でも、過去に引っ張られたまま成宮とつきあってしまえば、御幸と同じ過ちを繰り返すことになる。


好きじゃないのにつきあう。

それって成宮にすごく失礼だ。





「まだ一也が好きだから？」

「……」

「いーよ、そんなの知ってるし」

「私が嫌なの。こんな気持ちで成宮とつきあったら成宮を傷付けるもん」





きっと私は御幸の面影を追ってしまうから。





「……もうね、高校卒業するまで恋とかそーいうのから離れていたい。受験勉強だけに集中しようと思うんだ」





頃合だろう。どっちにしろ、恋に現を抜かしていられる季節じゃないんだから。


機械越しに電気を消す音が聞こえた。
もう夜中だし、成宮は寝るのかな。
だったら早く電話切ってあげなきゃ。





「……じゃ、成宮は野球頑張ってね」





最後にせめてもの誠意を返して、耳からスマホを離そうとすると「待てよ」といつになく真剣な声がそれを引き留めて。





「そんな理由で諦められねーよ。俺が何年葉月を好きだと思ってんの」





そんな甘い言葉を恥じらうことなくさらっと言い放つから、





「まだ一也が好きでもいいよ、受験勉強の邪魔をしたいわけじゃないけど、これからさ、

俺のこと好きになってよ」





私の気持ちは揺れはじめた。





.

020.戻らない→←018.前からずっと

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す