【◇】Bitter Home

005.いないから ページ5

.





「あ、そーいえば成宮さんは彼女いないんですか」





成宮さんの向かいに座り、親子丼を食べながら尋ねる。テレビはバラエティから切り替わり、興味もないドラマを映している。

成宮さんは味噌汁を飲み干して面倒そうに私を見た。





「いたらお前なんか住ませねーだろ」

「あ、やっぱいないんですね。まあその性格だとできないですよね、納得です」

「…………いたし！別れたけど！」

「振られたんですか？」

「……」

「図星」





へぇー振られたんだ。

成宮さんでも普通に恋愛して、彼女に振られて失恋したりするんだ。なんだか雲の上の存在のようなものだったのに、人間味を感じて親近感が湧いた。


にしても相手は誰だろ。

成宮さんは野球選手だし、やっぱ女子アナとかかな。



そんな私の考えを読み取ったのか「なんか勘違いしてない？元カノ、一般の子だから」とじと目で私の疑問を完璧に解決してくれた。

え、何この人。

冗談とかじゃなくて、エスパーですか。
いやマジで。





「高校の同級生？」

「いや、おれのファンだった子」

「ファンから彼女に昇格…っていうかファンに手ぇ出したんですか！？うわぁ……」

「ドン引きすんな。まあ……よくあることだし」

「ありませんよ！！」





今ので元からない好感度が更に下がった。
私は空になった器に箸を置き「ごちそうさまでした」と両手を合わせる。


なんか…知れば知るほど、残念だな成宮さん。

うんうんと感慨深く頷き、お皿を台所に下げようと席を立つと、成宮さんに「綾瀬はどーなのさ」とあくび交じりに訊かれた。





「彼氏はいませんよ」

「それはさっき聞いた。好きな人だよ」

「ああ……」





「別にいません」とナチュラルに嘘をつき、自分の分の食器を流し台につける。





「嘘つくなよ！おれだけ色々語ったのに不公平だろ！！」





ぷくっと頬を膨らませて怒る成宮さんの食器も同じように水の中へ。





「おい__」

「……本当に、いないですから」





スポンジに食器用洗剤を垂らす。

少し振り返ってみれば、成宮さんは納得できないようで頬杖ついてこっちを見ている。


そんな彼がおかしくて、私はスポンジを片手に眉を下げてくすっと笑った。



好きな人は、いない。

いないと自分に言い聞かせないといけないんだ。





.

006.女子力なんて→←004.毒は盛ってません

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す