033.幸せの定義 ページ33
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成宮
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自主トレの後、駅前の時計台に寄りかかって麻由を待つ。
少し顔を上げれば目に入る夜空。午後あたりから雲行きが怪しくなって、星を見ることはできない。麻由と初めて出会った日と正反対の空だ。
数年前、麻由は顔を真っ赤にして「私、甲子園で見てからずっと成宮さんのファンなんです!」と声を上ずらせて話しかけてきた。
呼び方が成宮さんから成宮くん、そして成宮くんから鳴へと変わるのに時間はかからなかった。
はあ、と手に暖かい息を吹きかける。
「……鳴、ごめんね遅れちゃった」
寒さも暗い気持ちも、好きな子の姿を見た瞬間吹き飛ぶのだから、俺は滑稽なほど単純だ。
麻由は走ってきたのだろう、肩で呼吸をしながら俺の前に並び、パパッと乱れた前髪を直した。
「珍しいね、鳴の方から呼び出してくるなんて」
「……うん。話したいことがあるから」
麻由はそっか、と息で言う。
「じゃあファミレスでも行く?」
「いや、すぐ終わるからその辺のベンチで大丈夫」
「……わかった」
冷たい手を頭の後ろに組んで歩きだす。あえて麻由の隣を歩かないようにしたのは、俺は彼女の隣に並ぶ資格がないから。
綾瀬は真田の結婚を知ったとき、どんな気持ちだったんだろ。
いつから、あんな風に笑えるようになったんだろ。
……いや、笑えてないか。
俺と綾瀬と一也と真田と、四人で居酒屋に行った日。綾瀬は真田を忘れられないと泣いていた。
俺よりも年下のくせに、ずっと苦い経験をしてる。
あいつに背中を押されたら、もう逃げるわけにいかない。
「麻由、簡単に言うとさ」
「…うん」
人一人分のスペースを空けて麻由と公園のベンチに座った。
自分の声が夜の闇に反響してやけに大きく響く。
「俺はまだ麻由が好きだよ」
「…………うん」
「知ってたでしょ」
「……」
「はは、ずるい女」
でもそんなとこが好きだったり。
好きな子の幸せなんて、男なら誰でも願うに決まってる。
違うのは、自分がその子を幸せにするのか、それとも自分じゃない誰かとその子を幸せにするのか、だ。
一度彼女の手を離した俺にできることは、後者しかない。
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ましゅまろーず(プロフ) - 夏乃実さん» 成宮くんと元カノさんの区切りがやっとついたので、成宮くんには夢主さんとのデートを楽しんでもらってます笑 いえいえ、そんな私なんてまだまだです…!ありがとうございます( ´ ▽ ` ) (2017年3月27日 8時) (レス) id: 8071ad0c84 (このIDを非表示/違反報告)
夏乃実(プロフ) - 初コメ失礼します!!毎回毎回ドキドキしながら読ませてもらってます。鳴ちゃん書くのがとっても上手くて尊敬します!更新頑張ってください^^* (2017年3月26日 23時) (レス) id: 926ac8ac50 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - *.-+樺虹+-.*さん» いえもう本当に私の理想の成宮くんを書いているだけなので…!笑 イケメンさを表現できているなら安心しました笑 樺虹さんありがとうございます!更新頑張ります♪( ´▽`) (2017年3月23日 22時) (レス) id: 8071ad0c84 (このIDを非表示/違反報告)
*.-+樺虹+-.*(プロフ) - 突然コメント失礼します!もう鳴がイケメン過ぎてやばいです!! 占ツクから通知来ると、bitterhomeかな??って思うほど楽しみにしてます!!これからも頑張ってください!! (2017年3月23日 18時) (レス) id: 7b9748159c (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - 胡美さん» 御幸くんはここでは成宮くんの友人ポジションという、キューピッド役になると思います笑 作者が真田くん好きなので出してみました! ありがとうございます^_^ (2017年3月20日 15時) (レス) id: 8071ad0c84 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましゅまろーず | 作成日時:2017年3月2日 18時