【◇】Bitter Home

029.伝えないと ページ29

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成宮


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すっかりしんみりとしてしまった車内。

「らしくないですよ成宮さん！」とか言って笑い飛ばしてくれれば楽なのに。


数回貧乏揺りをしていや、と奥歯を噛み締める。


……笑えるわけねーか。





____「結婚するって聞いてから、諦めよう諦めようって言い聞かせてた。……なのに、ちっとも俊平くんのこと忘れらんなくて、ずっと、辛くて……！」





俺の気持ちが誰よりもわかる綾瀬だから。

笑い飛ばすなんて、できっこない。





「……帰るか」

「…………成宮さんは」





座席から腰を浮かせて、ぐらぐらと悲しそうに揺れる綾瀬の瞳を見つめる。

膝の上に乗せている拳は、力んで微かに震えるほど硬く握られていた。





「それでいいんですか」

「…うん」

「ほんとに？後悔しません？」





後悔なんて、そんなのとっくにしてる。

そしてはそれはこれからも背負っていかないといけないんだと思う。

好きな子一人、守ってあげられなかった自分への後悔。





「私、ずっと後悔してたんです。なんで結婚が決まる前に、伝えれる時に伝えなかったんだろって」

「……」

「まだ麻由さんは結婚してないんですよね？なら、彼女の幸せを壊すからとか考えないで、きちんと気持ちを伝えてください」

「そんな簡単なことじゃ……」

「簡単なことです！！」





初めて聞いた綾瀬の真剣な怒鳴り声。
耳を通るより先に、心に大きく響いて。

綾瀬は両手で俺の手をきゅっと弱々しく握り、儚い笑みを浮かべた。

俺は目を見張って思わず息を飲む。


その笑顔で初めて、

俺は見惚れるという言葉を知った。





「成宮さんは逃げてるだけです。麻由さんに幸せになってほしいから、なんて勝手な理由をつけて」

「俺は……」

「伝えないとダメですよ。私みたいになってしまいます」





綾瀬の迷いのない真っ直ぐな目から目を逸らし、頭をかく。

なんだよ、年下のくせに生意気。


はあぁと細い溜息を漏らして、先に車を降りる。




…でも、心が軽くなった、てのは俺だけの秘密。





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