【◇】Bitter Home

027.笑ってる ページ27

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盗み聞きなんて趣味悪いかな。

好きな人に好きな人がいる。どんなにメンタルが強い人でもダメージを受けないわけない。


成宮さんはきっと、

泣きたいのに笑ってる。


悲しい気持ちを悔しい気持ちを抑えて、好きな人に心配させないように、冗談だよって笑ってる。



成宮さんの気持ちが痛いほど伝わって。

それは私だからわかること。


好きな人に好きと言えない。

楽だけど、辛い。





「……は、綾瀬！？なんでここに……？」





本能に任せて体を動かす。助け舟を出さなきゃ。無意識に成宮さんの隣に立っていた。

きょとんとする麻由さんを横目に「疲れちゃったんで、家まで一緒に帰ってください」と目をパチパチと瞬きしている成宮さんの手首をそっと掴む。


成宮さんは掴まれた手と私の顔を交互に見て「はあ！？」と絶叫する。





「いや、なんでここにいんの、マジで」

「夜ご飯を食べてたんです」

「いや、それはわかるけど……」





未だ呆然としている成宮さんを引っ張って立たせる。私は麻由さんと向き合って「ということで、成宮さんは帰ります」とペコッと頭を下げる。

「は、はい……」と混乱している麻由さんに、成宮さんは財布から樋口さんを一枚取り出してテーブルに置き、「こ、これ置いとくから」と言った。

そういうところだけはほんと紳士なんだ、相変わらず。


私は会計を済ませて成宮さんの手を引っ張ったまま外に出た。

人目を意識してるのか「つーかいつまで掴んでんの、離せよ」と私の手を振り払った。





「照れてるんですか？」

「誰が！！」





成宮さんの手の温もりがまだ微かに残ってる。


いつも通りの成宮さんだ。もっと落ち込んでるかと思ったけど、迫力あるツッコミをくれる元気があるみたい。

安心してふっと笑う。





「……なに笑ってんのさ」

「いつも通りの成宮さんになってよかったと思っただけです」

「な、」

「無理して笑う姿は見てらんなくて」





笑ったまま成宮さんを見て「思わず連れてきちゃいました。すみません」と謝る。

成宮さんはぐっと唇を結び、被っていた帽子を私の頭に乗せる。





「……慣れないことすんなよ、馬鹿なくせに」

「へへ、おせっかいでしたね」

「ほんと。……超助かった」





震える声に気づいて顔をあげようとすれば、帽子を深く被らされて視界を塞がれた。

成宮さんは「…今こっち見んな」と言った。


泣きたいときは、思い切り泣いていいんだ。





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