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『あー、なに？ 今じゃなきゃダメ？』
自分が立ってる感覚が掴めないときがある。
沼に沈んでいくような感覚に不安になる。
母さんは多分、そこから引き上げようとしてくれてる。
でも母さんが苦しそうに手を差し伸べてくるほど、自分がどれだけ情けない人間か知らしめられている気がした。
今だって必死に、沈んで良い理由を探してる。
「今じゃなきゃ逃げるでしょ。」
『っ……いやさ、別に逃げてるとかじゃ』
「これ、見て。」
暗い声音で母さんが差し出したのは何かの冊子。
仕方なく受け取ると、学校案内のパンフレットだった。
『……えっと、明日でもいい？ ちょっと今頭回んなくて、』
「良いから、見て。」
いつにも増して鋭く突き刺さる母さんの視線に言葉が詰まる。
さすがにもう誤魔化せないか……とパンフレットに目を落とした。
『夢ノ咲学院……ここってたしか芸能系の？』
「うん。母さんの知り合いに関係者がいてね。もう応募期間は終わってるらしいんだけど、特別に試験を受けさせてくれるって言ってくれたの。」
『えー。それ絶対やばいやつじゃん。母さん騙されて』
「ないわ。過ぎてるのは二日くらいだから、私の娘だし見逃してくれるって。」
『ああぁ……これさ、絶対受けなきゃダメ？』
「ええ。だってもう頼んじゃったもの」
けろっと言う母さんに頭をかく。
母さんの勝手はいつものことだけど、何で私が……
「……良い？ これは『私の娘』だから優遇してくれたの。唯一、揺らぐことのない、一生モノの貴女の価値。」
『……』
「利用しない手はないでしょ。正直、ここで無理ならもう貴女に救いようはないわ。」
母さんは厳しくて、でもいつだって私のことを考えてくれる。
こんな素敵な母さんをもてたことは、私の誇りだ。
「貴女が受けるのはプロデュース科。試験的に採用された、謂わばモデルケースね。」
『パンフにはのってない、けど。』
「本格始動は来年かららしいわ。一回面接して決めるけどほぼ落とされることはない。出来レースってやつ。」
母さんの苦しそうな声に、もう本当にこれしか手がないことがわかる。
母さんは、私に自分で沼から抜け出すチャンスをくれてるんだ。
信じて、くれて……
『受ける。頑張る。』
「……！」
『だから母さんは、母さんだけは、私のことずっと信じてて。』
久しぶりに流した涙が、結構しょっぱい。
私はその日、人生のリスタートを宣言した。
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一織(プロフ) - 生しょうがさん» 返信ありがとうございます！！ぜひぜひこれからも応援させてください…！！ (2022年8月13日 23時) (
レス) id: a117ee3fb5 (このIDを非表示/違反報告)
生しょうが - ♡ろぉる♡さん» コメントありがとうございます！一番だなんて…！嬉しいです！これからも応援よろしくお願いします！ (2022年8月13日 18時) (レス) id: 1856a8e0e6 (このIDを非表示/違反報告)
♡ろぉる♡ - すごい好みの作品です！今までで一番好きです！更新頑張ってください！ (2022年8月13日 17時) (レス) @page26 id: fb36bde41e (このIDを非表示/違反報告)
生しょうが - 一織さん» ありがとうございます！良ければこれからも応援してくださると嬉しいです！ (2022年8月13日 11時) (レス) id: 1856a8e0e6 (このIDを非表示/違反報告)
一織(プロフ) - 初コメ失礼します、すごく好みな作品にやっと出会えました！ありがとうございます！ (2022年8月11日 23時) (レス) @page13 id: a117ee3fb5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：生しょうが x他1人 | 作成日時：2022年8月11日 14時
