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坂田さんがのんびりと喋りながら歩いている間も、周囲にいる彼らは頭を下げていた。なんだかとんでもない光景である。
少し前まで怖くて仕方なかったのに、ここまでくると驚きと戸惑いが混ざってそれどころではなくなってしまった。権力者、という言葉が頭を過ぎる。たしかにやけにお高そうな着物を着ていたりするし、なんて悶々と考えていると、坂田さんが立ち止まる。
「……A?大丈夫?」
「あ、へ、はい、ごめんなさい」
「いや謝らんでええけど、なんか気に入らないことあった?俺が全部Aの望み通りになるようにしたげるから、言って」
間違いなく権力者じゃないと言えないセリフじゃん!!!
彼がこのおかしな街の中でかなりの権力者であることは分かったけれど、でも私が言いたいのはそこじゃない。そこじゃないのだ。なんか萎縮してしまって言いにくいから察して欲しい。
「その……そういう事ではないんですけど……」
「けど?」
「な、なんか居心地悪いなーって思って……だから、早く行きませんか?えと、この街の中心の方に坂田さんのお店があるんでしたっけ」
とりあえず静まり返った街の中で会話するのも歩くのも居心地が悪くて仕方が無いので、私はこの場から早く去ってしまいたい一心だった。だって私は生粋の謙遜を美とする種族だもの。
周りにいる彼らがいかに奇妙で不気味であろうが、人間の本質というのはそんなものだ。なんとか彼に伝わるように小さな声でありながらも言葉を紡いだ私に、坂田さんは「わかった!早く店まで行こうな!」と元気な声で返してくれた。なんだか坂田さん私に対してはめちゃくちゃ対応甘々だな。
なんて思っていた時、ふと花の甘い香りが鼻腔を刺激した。それに反応して顔を上げると、何故か宙にはひらひらと桜の花弁が舞っていた。周りに桜の木なんてないのに。
「A、目閉じて」
「え?」
なんでまたそんなことを、なんて思いながらも今この状況でそれを聞いていいものか迷ってしまって、私は結局彼の言う通りに目を閉じる。すると、途端にひどく甘い花の香りが肺に入っていくのを感じた。
それは、春の匂いにとてもよく似ている。冬が終わり、花々が芽吹く頃に肺いっぱいに空気を吸い込んだ時にもこんな匂いがしていた気がする。
ほんとになんなんだろう、この匂い。何故か遠い昔にも、この匂いに包まれていたことがあるような気もする。やけに既視感があるというか、懐かしいような気持ちになる。
「(……私、昔もここに来たことがある気がする……)」
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李 雨月(プロフ) - かわいい私が好きさん» その言葉がいただけて字書き冥利に尽きます(照) タイトルもこだわっているので褒めていただけて嬉しいです。コメントありがとうございました〜! (2022年11月8日 22時) (レス) id: 8fe15b8549 (このIDを非表示/違反報告)
かわいい私が好き - 題名だけでドタイプを貫いていたので覗いてみたらもう最高の作品に出会いました👐✨これからも読み続けます😉 (2022年11月4日 20時) (レス) @page12 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - みこさん» 一コメですよ〜!面白いと言っていただけてとても嬉しいです!コメントありがとうございました◎ (2022年10月17日 0時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
みこ - 一コメ、、、?めっちゃ面白いです!ありがとうございます!更新楽しみに待ってます! (2022年10月10日 15時) (レス) @page11 id: 3112c05530 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白雨 | 作成日時:2022年9月19日 21時