僕らの存在証明論 (ページ32)

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第31話ページ32

誰もが寝静まり、静寂に包まれた真夜中に目が覚めた。

時計の針は深夜１時を回り、静かに秒針を刻む。

私は喉の乾きを覚えて、浦原さんに貸してもらった部屋を出て台所へと向かう。

水道から水をだし、コップに入れて一気にそれを飲み干す。

冷たい水が渇いた喉を潤し少しづつ眠気が戻ってくる。

フラフラと覚束無い足取りで元来た廊下を帰ろうとする。

だが私はすぐにその足を止めた。

歌が聞こえた。

「城の南で戦ってぇ...郭の北で死んだのさぁ...。」

野垂れ死にしてそのまんま、後は烏が喰らうだけ

ここ最近、私の耳に酷く残っているその歌が縁側の方から聞こえる。

曲調は明るいはずなのに、歌声はどこが寂しさを感じる。

「おれのためぇ...烏のやつに言ってくれぇ...」

自然と足はその声の主の元へと動く。

「がっつく前にひとしきりぃ...もてなすつもりで泣けよってぇ...。」

野晒しのままほら、墓もない

腐った肉さ一体全体どうやってお前の口から逃げるのさ？

月明かりが照らす縁側でその人は一人お酒を飲んでいた。

「夜一さん...」

私が名前を呼ぶと彼女は静かに振り返り「なんじゃまだ起きておったのか」と優しく笑った。

私は夜一さんの隣に座りそのコップにお酒をつぐ。

すると夜一さんは少し驚いた顔をしてまた小さく笑った。

「夜一さん、その歌私も知ってるよ。でも名前を知ったのは最近なんだけどね、『戦城南』って言うんだってね。」

私がそう言うと「そうか、戦城南と言うのか...」と月を見上げたまま呟くように言った。

「題名しらなかったの？」

「儂の古い友がよく歌っていた歌じゃ。そやつがよく歌いすぎて、そやつと交流のあったものはだいたい歌えるようになってしまった。」

「だから題名も知らんのだ」と彼女はどこが懐かしそうに言った。

「へぇ夜一さんの友達ってことはその人も死神なの？」

「あぁ死神じゃったよ。もう死んでしまったがな...」

夜一さんや浦原さんが尸魂界から来たというのはこの前聞いた。

何故こちらに来る事になったのかは教えて貰えなかったが、きっと深い訳があるのだろう。

私より何倍もの長い時間を生きるもの達。

その気も遠くなりそうな時間の中で、彼女の中に強い印象を残した一人の死神。

夢で見るあの楽しそうな光景はもしかしたらその人を囲んだ死神達なのかもしれない。

何故夢にその人が出てくるか分からないが、死してなお誰かの記憶に残り続ける名前も知らないその人が少し羨ましく思えた。

「いい人だったんですね。」

「あぁ、良い奴じゃったよ」

夜一さんは月が映るそのお酒にまた静かに口をつけた。