黄瀬涼太はソクバクされたい。

・ ページ16

机の上には教科書とノート、それからワーク、筆記用具等が乗っている。

｢よーし、やるっスよ｣

気合い入れに頬を軽くパンッと叩いて、ワークたちを開いた。
……が、すぐに閉じた。

｢うん、これはやばい｣

思わず現実逃避をしたくなるほどに、ワークが真っ白だった。｢二年 黄瀬涼太｣と表に書かれたワークは前回範囲からちっとも進んでいないらしい。まぁ、やった記憶もないっスけど。

ぐずぐずしていても仕方がないので、気を取り直してもう一度ワークを開ける。

｢えーと……なになに＿＿｣

【問一：正三角形ABCで辺AB上の点をDとしADを1辺とする正三角形ADEを△ABCの外側につくるとBE=CDである。これを証明しなさい。】

｢これ何語？｣

初っ端から躓いた。
意味わかんねーっス。そもそもなんで数学に英語なんか出してくるんスかね。

｢よし、数学は一旦やめよう！｣

諦めが肝心、とか言うし。
俺は数学のワークを机の隅に追いやった。

*

｢黄瀬くん、テスト勉強は順調？｣

隣を歩くAがそう声を掛けてきた。

｢えっ！？あー……まぁー、うん｣

本当は提出物すら何一つ終わってないのだけどなんとなくカッコつけたくて余裕ぶってみる。

｢そっかー。私も一応やってはいるんだけど、最近は勉強ばっかりだからつまんないや。あーあ、早くテスト終わらないかなぁ……｣

勉強が得意な彼女でもテスト週間はやっぱり嫌なものなんだなぁと呑気に考えながら

｢そうっスねー｣

と相槌をうつ。

｢あっ、でもテスト週間はお互い部活が休みになるから毎日一緒に帰れるよね。それは嬉しいかな｣

ぽつりと零された言葉に俺の心臓が過剰に反応する。ばっと彼女の顔を見るとその頬がやや赤く染まっているように見えた。

｢あ、えと、ごめん｣

なんで謝られたのかはよく分からないけど、パタパタと手で風を扇ぐ彼女がすごく愛おしく見える。彼女のもつ熱がこちらにまで伝染したのか俺まで顔が熱くなってきた気がした。

｢それは俺も嬉しいっス｣

すっかり慣れてしまった作り笑顔じゃない本当の笑顔で俺も微笑んだ。


✼••┈┈••✼

未だに残っていた中学二年生の数学のワークをわざわざ引っ張りだしてみました。
懐かしい……
ちゃんとした問題ですので解きたい方はご自由に。

・→←Time's Armistice

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す