小噺ー虎柄の包帯様ー ページ5
ギィと、茶色の扉を開ける。
小さな鈴は僕たちを出迎えてくれてるかのように優しく鳴って、僕はおもわず笑った。
『いらっしゃいませ………あら』
エプロンドレスに身を包んだ僕と同じ白い髪の女の人が笑って声をかけて来た。
その人が僕の隣に立っている人を見て、懐かしそうに目を細めて優しく笑った。
『お久しぶりですね、太宰様』
「やぁ、久しいね、オーナー」
隣にいた人、太宰さんがオーナーさんに微笑みかけて、カウンターに座った。
僕も慌てて追いかけてカウンターに座る。
オーナーさんが手慣れたように食器を拭いて珈琲を入れ、太宰さんの前に髪を片手で押さえながら置いた。湯気の立つ珈琲は昼間だからというのもあってとても美味しそうに見えた。
『今日はお一人じゃないんですね』
「うん、ここを紹介したくてね。
こちら新人の敦くん」
「ど、どうも」
促されて頭を下げた。
オーナーさんは夜に霜とかいて、やしも、と読むらしい。笑顔がとても優しくて綺麗な人だ。
「敦くんは虎になる能力を持ってるんだよ」
『へぇ、興味深いです』
「今度またたくさん教えてあげるよ。
さて、今回はどんな本を貸してくれるんだい?」
本…………?
思わず首をかしげると、太宰さんが、
此処はカフェだけど、音楽も本も揃ってる、最高の店なんだ。と教えてくれた。
本は確かにたくさんある。
レコードも、丁寧にケースに入れてしまってあった。
『今回は、文字禍を』
「………また作者不明の謎作かい?」
『此処にはこういうものしか置いてませんから』
申し訳なさそうに眉を下げて言った夜霜さんが、そっと僕を見た。そして僕にも一冊の本を差し出した。
「山月記………」
『貴方にぴったりだと思いますよ』
その笑顔で言われると自然とそんな気がして、僕は頁を開いた。
白い虎が描かれた表紙、古風な文章。
意味は自然と読み取れて、不思議なくらい手が進む。
「っふふ、珈琲追加で」
『かしこまりました』
そしてそっと置かれた珈琲の湯気は、僕を誘うように立っていて、そっと一口飲んだ。
少し甘い。でも後から苦い。
うん、好きな味だ。
「また、来てもいいですか」
ほとんど必然的にその言葉が出て来た。
また来たいという意志から。
夜霜さんは、また優しく笑った。
『またいつでもお越しください』
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四月一日(プロフ) - NamE.薆さん» ありがとうございます! (2017年12月31日 7時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 四月一日さん» かしこまりました!この小説の続編の方に書かせていただきますのでご覧ください。 (2017年12月30日 23時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
四月一日(プロフ) - NamE.薆さん» あ、そうでしたか。では、似たような異能をお願いします! (2017年12月30日 12時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 薬研清香さん» 申し訳ありません。他の方からのリクエストなので、使用を許可できません。似たような異能をご希望ならお作りしますが、どうでしょうか (2017年12月30日 12時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
薬研清香(プロフ) - 37頁のクレヨンを使わせて頂いてもよろしいでしょうか? (2017年12月30日 9時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年10月1日 21時