ひと匙の幸せ【衣更真緒】

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「 帰らない。今日は月城に頼みがあって来たからな 」

「 …頼みをきいてあげる義理もないんだけど 」

「 次のドリフェスの曲、月城に書いてほしくて 」

「 ねぇ私の話聞いてたっ！？ 」





私が曲なんて書かないって分かってるはずなのに、どうしてそんな提案をしてきたのか不思議でならない。

眉間に皺を寄せる私に、衣更は困ったように笑う。





「 やっぱ…ダメか？ 」

「 ダメっていうか嫌！ そうやって必要とされるのは今だけよ。後になって嫌な思いはしたくないから 」

「 そんなことないって 」

「 無責任なこと言わないでよ 」





ここのところ衣更のせいで全く気持ちよく昼寝ができていない。

隣に衣更が座っていようとお構い無しに背を向けて寝転がり、視界をシャットアウトした。





「 既存の楽曲でも使えば？ それか提供曲。この前の…なんだっけ、忘れたけど。革命が成功して予算には困ってないんだから 」

「 俺はお前の曲が歌いたいんだよ 」

「 衣更がそう思っても他のメンバーは思ってないかもよ。じゃ、おやすみ 」





これ以上 話すことなんてないと口を結ぶと、背後で身じろぐ音が聞こえた。

そしてピタリと背中に何かが触れる感触。





「 …分かったよ。けど、俺は諦めないからな 」

「 なっ、なななな…あんたっ、何してるの！ 」





あろうことか隣で横になり、私の背に自分の背をくっつけて眠る衣更は、「 寝るんだろ？ おやすみ 」とそれっきり話さなくなってしまった。

やがて聞こえてきた規則的な呼吸音に、頭痛を覚える。





「 どこまで私をかきまわせば気が済むの… 」





今日も、眠れそうにはない。





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