第玖拾陸戦 長兄 ページ49
「覚悟しておかないと、陸海共に見てきた私は厳しいですよ……？」
良いですね、と念を押され、予想しなかった主の気迫に、粟田口の短刀たちは振り子の様に頷いた。
特に前任相手に暴れた際の長門を間近で見ている前田と鯰尾は、これ以上ない程ピンと背筋を伸ばした。あなおそろしや。
「とはいえ流石に名立たる刀剣の付喪神の皆さんを、軍隊式で扱きに扱く訳にはいきませんので、多少なり加減はします。貴方がたのご兄弟もなるべく早くお迎え出来るよう、尽力致します」
付喪神との交渉は成立したが、後にこんのすけはその内容に背筋を震え上がらせた。
◆◇◆
時折、長門が見せる鬼神の如き気迫を感じていると、彼はまだまだ現役なのだろうと密かに思うのは、薬研である。
御茶菓子を嗜んで一頻り休憩すると、短刀たちは道場の掃除をしたいと言い出した。離れの反対側にあるそうで、後藤が弟たちを連れて光忠に許可を貰いに行った。
「なぁ大将、一期一振って聞いた事あるか？」
「はて、どこかであるような……無いような……」
「多分一期一会だな、既視感あるのはその所為だろ」
一人長門の許に残った薬研が、そっと審神者の傍らに腰を下ろす。鶴丸に、脳筋とまで形容された専ら軍人脳の主が名刀の知識を予め持っているとは考えにくい。
彼は無知ではないが、余り自分たちの境遇を気にして、深い事まで聞いて来ないようにしているのは、薬研も重々理解している。
粟田口吉光によって打たれた唯一の太刀、一期一振。粟田口吉光が一生に一度、かつ一振りしか作れないと太鼓判を押した名刀の中の名刀。
毛利輝元や豊臣秀吉など、歴史に名を残す人物の許に渡り、文久三年、皇室御物として献上された。そして薬研たち藤四郎兄弟の長兄である。
「一期一振……いち兄は、この本丸の最初の審神者でも迎える事が叶わなかったらしい。だから弟たちが早く会いたくてあんな我儘言ってな……」
「なるほど……。どの道、貴方がたの判断は間違っていませんから、遠慮しなくて大丈夫。薬研君も甘えて良いですよ」
「……いや……別に、俺は……」
年甲斐が無いだ、大人げないだとモゴモゴ口篭もる薬研の何とも言えない表情に、長門は表情を綻ばせた。
人の身を得ても彼らは刀剣の付喪神。戦うことが本分。だから彼らは自分の許で戦いたいと言った。それは至極当然だろうと思う。
独り善がりだろうが、ブラック本丸で傷付いた刀剣だからと戦わせず、箱庭に閉じ込めておくのは人間のエゴでしかない。
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
