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第玖拾伍戦 兄弟 ページ48

「悪いな大将、こいつらの我儘聞いてやってくれ」

「まぁそれが審神者としての本分ですし、大丈夫ですよ」

少々、否、かなり勘違いをしているのではないかと薬研は内心ひとりごちるが、主には主なりの考えがあっての事だろうと何も言わないでおいた。

「……あ、あの……。あるじさま……」

「はい?」

お茶を飲みながら短刀たちと会話を弾ませていると、五虎退が控え目な声音で長門へ声を掛けてくる。少しモジモジと話を切りだすのに躊躇していると、後藤や鯰尾に背を押され、ようやく口火を切った。

「……あ、あの……えと……。ぼ、僕たちに兄弟がたくさん居るのは、あるじさまもご存知ですよね……」

「あぁ、こんのすけさんから伺っていますよ。刀帳に記載されていても、まだ姿を見ていない方も居られますね」

小虎を膝の上に乗せ、正座で長門と向き合う五虎退の肩が僅かに震えていた。乱がそっと五虎退の右手の握り締める。バトンタッチの代わりの合図なのか、鯰尾がそっと五虎退の頭を撫でた。

「それで……俺たち粟田口派は、人数も多くて戦慣れしてる短刀も多い事もあって、よく引っ切り無しの出陣をさせられていたんです……」

「僕たちは前任の前の主君……この本丸の最初の審神者であった方がご健在だった時は、まだ他の……刀帳に載っていた兄弟たちが居ました」

鯰尾、前田が少しずつだが、長門が暫くは口を出すまいとしていた件を淡々と語っていく。度重なる出陣で傷付き、果てには折れていった兄弟が居る。
だからもう一度会いたい。今度は長門の許で兄弟たちと再会したい。長門の刀剣として、名刀の誇りを貫き通したい。

「大将、俺たちの我儘なのは百も承知だ。……でもな、兄弟の覚悟は本物なんだ。今すぐじゃなくても良い、だから答えをくれないか……?」

兄弟に会いたい。だから強くなりたい。彼らの意志と強い覚悟は、目を見るだけで一目瞭然である。
今まで陸士で何十人何百人もの教え子を見送ってきたからこそ分かる。彼らは本気だと。ならば審神者たる者、彼らに応えねばなるまい。

「良いですよ」

「え、即答!?」

思わずすっとんきょうな声を上げる後藤に、長門は表情を緩めたが、ハッキリと首を縦に頷いた。
ぱっと粟田口の短刀たちは嬉しそうに表情を緩めたが、長門の念押しに自然と背筋が伸びる事となる。

「言っておきますが、私の本分は軍人です。生き残る為には手段を選びませんし、弱音を吐く暇があれば体力と精神力を鍛えろと言います」

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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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