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ハードカバーのその本は一冊一冊本と同じ型の箱に入っているものだ。
「夏目漱石」や「泉鏡花」「アンドレ・ジッド」「ジェームズ・M・バリー」……と私のお気に入りの文豪集がとん、とんと引っ張られては山に重なっていった。
そして、次の本に手をかけた瞬間に、黒子さんの手がぴたりと止まる。
「サン・テグジュペリ」……「星の王子様」を手掛けたその作家の箱を持って、私の一番好きな作家のそれをもって……一時停止をするように。
それもそのはず。その箱の中に本はないのだから。
一冊だけ異様に軽いとなれば手が止まるのも無理はない。しかも私の一番お気に入りの本なのだ。箱だけ置くだなんてことをするはずがないのだから。
ドキドキと心臓の音が高鳴る私をよそに、黒子さんは「サン・テグジュペリ」の箱をそろりと手にとる。
「…………これ」
そして、小さく、ぽつりとそう言葉を零した。
箱の中に入っていた、一つの便せんを取り出して。ただ茫然とその空色のシンプルな便箋に書いてある字を眺めてから……揺らぐ水色の瞳で私の方へ振り替える。
少しだけ不安そうな瞳に、私はにっこりと笑いかけた。
「はい……『黒子テツヤさんへ。』です」
「もしかして、僕にこれを読ませるつもりで短編のデータをなくしたって言ったんですか?」
「正解です」
「困った作家さんだ」
彼の手にある「黒子テツヤさんへ。」と書かれた手紙を見て、彼は困ったように笑った。
「読んでみてください。……黒子さんに言いたかったことを新米小説家のすんばらしい文才で書きあげましたので!」
「君……未だに赤ペンだらけなの忘れましたか?」
「そ、そのことはいいからっほらっ!読まないと短編のデータ渡しませんよっ!」
ポケットに入れてあったUSBメモリをひょいとあげると、黒子さんは小さくため息をついた。
安心したような、やっぱり困っているような……そして、少しうれしそうな顔で。
わかりました、と緩んだ表情で言った彼が、空色の便箋に目を落とす。
3枚程度のその手紙は、すぐに読み終わってしまうほどに短い内容で。
でも、私の思いをとにかくたくさん入れたものだ。
学生と社会人で年の差があるのはわかってるけれど奥手すぎませんか、とか。
いつもお仕事ばっかりでどうしてかまってくれないんですか、とか。
黒子さんはどれくらい私のこと好きなんですか、とか。
大好きで大好きで仕方ないんです、とか。
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鎖月零(プロフ) - Flower*さん» flower!ありがとうございます!!短編の夢主は同じ夢主で書くのが普通だということを今の今まで知らなくて……全員バラバラにしてしまいました(笑)私も短編の方が書きやすくて軽くかけるので楽しかったです!続編頑張ります! (2018年2月26日 18時) (レス) id: e5c976073b (このIDを非表示/違反報告)
Flower*(プロフ) - 1完結(?)おめでとうございます!甘々で読んでてドキドキしてしまいました(*ノωノ) それぞれのお話の夢主ちゃんたちも個性豊かで面白し、何より短編なので読みやすいです。やっぱり零すごい……。続編の方も首を長くして待ってます! (2018年2月24日 0時) (レス) id: 4d95f4e8a2 (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» めっちゃ楽しみにしてます!!! (2018年2月18日 18時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
鎖月零(プロフ) - 黛パフェさん» うそぉ……本当に恥ずかしいです(笑)規制かかる系の甘々はあまり得意分野ではないのですが、楽しんでいただけると幸いです……!甘くなるように頑張ります (2018年2月18日 18時) (レス) id: a33d034fdf (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» 今でもたまに見たりしますよ!黄瀬くんの好きですー!規制とかあまり気にしないタイプなので別のアカウントで見に行きますねー! (2018年2月18日 1時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
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