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言われた事を頭の中で整理しながら、心なしか赤い彼の頬を見上げる様に眺める。徐々に居た堪れなくなってきたのか、黄瀬くんの視線がギギギッと鈍い音を立てる様に横に向いて行く。
やがて頭がスッとクリアになった感覚を覚え、私はそのまま思うがままにゆっくりと言葉を紡いだ。
「ねえ、サインくれない?」
「……は?」
「……いや、本当に。本当にごめん。なんかこの親密度なら貰えそうだなとか思って思わず言っちゃった。マジ忘れて。本当ごめん」
言った直後に自分が混乱していた事、先程の頭がスッとクリアになった感覚は考えがまとまったわけではなくただ単にフリーズした事を自覚し、同時にありえない脈絡でサインを要求してしまった事に猛烈に後悔が襲う。
「俺今結構真剣に話してたんスけど!」
「ほんとごめ〜ん! 急なんだも〜ん! でもサインは欲しい〜! 有名になるなら今のうちに貰っときたいって言いそびれてたの〜!」
「いやサインくらい良いッスけど! 今じゃなくない!?」
半分涙目で頭を抱える私と困惑顔で若干抗議する黄瀬くん。
しばらくわーわーと言い合っているうちに、やがて双方落ち着き私は肩で息をしながらふと思い当たった事を言った。
「この前のショック受けて欲しいっていうアレさ」
「うん」
「黄瀬くんと2人で遊ぶ時間減るのを悲しんで欲しいってこと?」
「…………何で全部言語化するんスか」
黄瀬くんが恥ずかしそうに目を伏せる様をぽかんとしながら見ていた。
やがて堪らず込み上げてくるものを隠さず、私はそのまま吐き出す様にお腹から声を出して笑ってしまった。
「あははは! かわい〜!」
「こっち真剣なんスけど……」
「ごめんだって、ふふ、あはははっ」
あまりに可愛らしい理由に涙が出そうなくらい笑う私に最初は不貞腐れた様な顔だった黄瀬くんが、「もう」と呆れた様に言うと徐々に笑顔になって行く。
「多分Aちゃんは今後俺に彼女出来てもショックなんか受けてくんないと思うッスけど」
笑いも収まった頃、黄瀬くんが不意にため息混じりの声で呆れた様に言う。否定は出来ないなと思っていると、すぐに続きの言葉を紡いだ。
「でも、Aちゃんのそーゆーとこが好きッスよ。俺は」
いっそ清々しいくらいに綺麗に笑う黄瀬くんの橙色に染められた顔が、その時はやけに目に焼き付くのを私は感じていた。
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牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時