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「黄瀬くん、遅くなってごめん」
紫原くんとの束の間の邂逅から少し経った頃。思っていたより遅くなってしまった、と駆け足で待ち合わせ場所に向かうと、黄瀬くんは設置されたベンチでケータイを眺めていた。声を掛けるとすぐに顔を上げ、「あ、来た」と爽やかに笑った。
「なんかいろいろあって。ごめんね」
「全然待ってないから良いッスよ。行こ」
立ち上がりながらそう言って伸びをする黄瀬くんを見て結構待たせちゃったんだろな、と少し申し訳ない気分になる。
「どこ行きたいッスか?」
「うーん、まずご飯食べたいかも」
「もうお昼時ッスもんね。学食空いてるかな」
私にとっては来た道を戻る様に、学食がある棟の方へ歩き出す。隣の黄瀬くんはどこから出したのか文化祭のパンフレットを眺めながら、「俺ここ行きたいッス」とページのある部分を指差し私に見せてくる。
「おばけ屋敷やだ〜。1人で行ってきてよ」
「えー! 何でッスか!」
「怖いもん。しかもオカ研のでしょ? 尚更怖い」
昔からおばけの類は本当に苦手だ。実を言えば黒子くんの気付いたらそこにいるあれも、漫画の主人公との貴重なミーグリの機会だと思わないと若干怖い。
やだやだ、と首を横に振る私を見て黄瀬くんは拍子抜けした様な表情で「怖いものとかあるんスね」とポツリと言う。
「私のことなんだと思ってんの」
不満を隠さない声でそう問えば、そんな私とは対照的に黄瀬くんはおかしそうに「ごめんッス」と吹き出した。
・
私は大人だ。
外見は中学生でも、中身は社会人経験のある一般的な大人である。
だが大人であろうと、怖いものなんて一つや二つくらい往々に存在する。
私の場合一つはおばけ系。おばけサイドからしたら謎に記憶を持ったまま2度目の人生を生きている私のこともまあまあ怖いとは思うが、それを差し引いても生理的な恐怖が拭えない。
そしてもう一つは何と言っても同性からの嫉妬である。
とは言っても、これに関しては今までまともに浴びたことがなかった為現在進行形で気付きを得た段階ではある。
わかっていたはずなのに、私はわかっていなかった様だ。自分の隣を歩く彼が大層容姿が優れた人間であることを。
廊下の人々の往来の中から、隣へ向かう驚愕と羨望の視線とその直後に都度都度突き刺さる決して少なくはない冷たい視線に私は内心頭を抱えながら思っていた。
こ、怖いよ〜〜〜〜。
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牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時