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「Aちゃん、もう帰れるッスか?」
ある日の放課後。6月に入り、春の陽気にじめりとした湿気が入り混じり始め、梅雨の足音を感じずにはいられない今日この頃。
その日もホームルームが終わると、いつも通り黄瀬くんはそう声を掛けてきた。中間試験後の席替えで席は離れてしまったが、彼とは変わらず比較的一緒に行動する事が多い。
「うん。私今日駅まで行くから途中でバイバイだけど」
今日は放課後高尾くんと遊びに行く約束をしている日で、前回と同じ駅で待ち合わせの予定だった。
そう言えば、黄瀬くんは鞄を背負い直しながら何気なく尋ねて来た。
「どっか行くんスか?」
「うん、この前遊んだ子と」
私の返答に黄瀬くんはまた例の感情がよく読めない顔で「そッスか」と、少し乾いた声で言う。
偶にある、この表情の時の黄瀬くんには、なんて返答するのが正解なのかがわからなくなってしまう。著しく機嫌を損なっているわけでもないが、あまり良い気持ちではなさそうな、そんな彼の曖昧な表情が偶に露見する度どうしたものか、と次の全く関係のない話題を探すのが、今の所の最適解になっていた。
あ、この前金ローでやってたトトロの話でもしよう。きっと黄瀬くんは「俺トトロより魔女宅の方が好きなんスよね」なんて返してくると思うけど。
そう思いながら口を開きかけた時、黄瀬くんが階段の中央で立ち止まっている事に気が付く。
「黄瀬くん?」
私も踊り場で足を止め彼を見上げる形で呼びかけると、黄瀬くんは不意に言葉を紡いだ。
「そういえば俺、彼女出来たんスよ」
見上げた黄瀬くんの顔は窓に差し込む日差しから逆光になっていて、よく見えない。でもきっとこのいつもよりも平坦な声色から察するに、あの不思議な表情を作っているのだろう。私と黄瀬くんしかいないこの階段の静寂を少し和らげる様に、どこかの部活動の掛け声が遠くから聞こえる。
西陽に当てられキラリと輝く金髪を黄瀬くんがするりとかきあげる様を見ながら、私はこう考えていた。
え〜、マジで脈絡皆無じゃん。と。
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牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時