32 ページ33
「今回出品していただいた本が売れても出品者に利益は還元されないので、ご了承ください。あとは何らかの理由で出品不可と判断された本は返却します」
「わかりました」
最後に担当者の項目に自分の名前を書いて、複写の控えを一枚剥がし「これは一応学祭終わるまで取っといてください」と一言付け加え、緑間くんに手渡した。
結構緊張したけど何とかなった、と彼に気付かれない様に小さくため息を吐く。すると控えを眺めていた緑間くんが小さく目を見開いたのが見えた。
「桐原……」
「え?」
名前教えたっけ、と思いながらも「何でしょう?」と首を傾げそう尋ねると、緑間くんは控えから目を離しじっと私の顔を見下ろす。
何で私の名前知ってるんだろう。あ、控えに名前書いたからか、と1人合点を付けていると、緑間くんは再び口を開いた。
「お前が2組の桐原か」
「あ、はい……」
「そうか」
納得する様な、咀嚼する様な返答で緑間くんはそう言ったきりしばらく黙り込む。その間眼鏡越しの瞳は私をまじまじと見つめており、何故か関心と闘志に沸る様な色を宿していた。
「私の顔に何か、付いてます?」
言っている途中でさっき緑間くんにされた質問をオウム返ししていることに気が付く。
彼はそんな事は気にも留めず、フン、と鼻を鳴らして笑った。
「今回の中間は俺が負けたが……次の期末試験では赤司にもお前にも勝たせてもらうのだよ」
あ、試験関連ね。なるほど〜〜なんか認知されてる〜〜。
この人負けず嫌い設定もあるんだっけ。本当にてんこ盛りだな、なんてぼんやり考えながら、「はあ」と曖昧な返答をする。言った後からこれもさっきのオウム返しだなと気が付いた。
さりげなく出た初めての生「なのだよ」に興奮しつつも、顔には困惑の表情を色濃く浮かべていると緑間くんは「じゃあな」と突然踵を返し図書室を後にした。
きっと三位だった事が悔しかったのだろう。本来私がいなければ二位だったはずの彼に、幾許かの申し訳なさを覚える。
ごめんなさい、大の大人が中学生と同じ土俵に立ってしまって。次は勉強時間短縮するので許してください。
もう去ってしまった彼の中学生離れした大きな背中を思い浮かべながら、そんな懺悔の言葉を念ずる。
その後すぐに、本の返却から帰って来た黒子くんからの「どうしたんですか、そんな難しい顔して」という問いに、私は「なんでもない……」と絞り出す様に返したのであった。
63人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時