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「ハードとは言っても僕はまだ三軍なのでまだまだです。いつか一軍のレギュラーになる為にも、もっと頑張らないと」

 脳内にぶわっと、過去に読んだ漫画のシーンが溢れ出てくる。
 練習を続けても芽が出ずコーチから退部を勧められるシーンや、その帰り道に苦しそうに涙を流すシーン。
 結果的に彼はその稀有で特殊な才能を活かして一軍レギュラー入りを果たすが、その過程で血の滲むような努力が報われない挫折と絶望を彼は経験することになる。

 彼がこの先辿る、辛くて苦しい現実に少し思いを馳せながら「そっか、頑張ってね」と出来るだけ感情を入れない様に返した。

「はい」

 年齢よりも少し落ち着いた、それでも闘志がこもった黒子くんのその返事に口角を上げて返した。

 桜が徐々に散り、若葉がところどころに芽吹き始める4月の下旬。
 私が支えてあげられるものでは決してないが、外から見ている人間の1人として、もう一度桜が咲く、彼の苦しみが和らぐその季節に早くなればいいなと思わずにはいられなかった。

 ふと、下校時間を知らせるチャイムが校内を突き抜ける様に鳴り響いた。

 もう1時間半経ったんだと驚いて思わずスピーカーの方へ目を向けていると、「あっという間でしたね」と黒子くんは一言呟いて、単行本に今度こそ本物の栞を挟み立ち上がった。

「施錠して帰りましょうか。お疲れ様です」
「あ、うん。鍵どこだっけ」
「そっちの2段目の引き出しです。オリエンテーションの時に言ってましたよ」
「目開けて寝てたんだって」

 さっき二度と言わないと心に決めた直後だったのにまた言っちゃったよ、と若干後悔しながら引き出しから鍵を取った。
 出入り口の扉へ先に行き、黒子くんが自習机にまだ残っている生徒に声を掛けその影の薄さに驚かせている様子を見ていた。

「黒子くーん」

 まだ残っていた生徒を帰し、扉の方へ歩いてきた黒子くんを間延びした声で呼び掛ける。

「何でしょう」
「一軍レギュラーになったら試合見に行きたいから呼んでね」

 そう言うと黒子くんはニコッと少し嬉しそうに笑う。

「ええ、是非。その時は見に来てください」

 言動や所作が落ち着いてるので大人っぽい雰囲気を醸し出しているが、やっぱ顔は童顔だよなぁと、彼のまだ子供の色を残した笑顔を見てぼんやりと考えていた。

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設定タグ:黒子のバスケ , トリップ   
作品ジャンル:アニメ
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牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時

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