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そして数日後の水曜日の放課後。私は勝ち取った。
「よろしくお願いします」
「ワッ……びっくりしたいつのまに……。よろしくお願いしまーす……」
ジャンプの人気漫画の主人公、黒子テツヤとの2週間に一度1時間30分のミートアンドグリーティングの機会を。
ホームルームが終わった瞬間に若干小走りで図書室に向かい、黒子くんが来るのを今か今かと待っていたというのに、その待ち人は気が付いたら自分のすぐ横の席に既に腰掛けていた。
漫画のイケメン設定やば〜と黄瀬くんを初めて見た時は思ったものだが、漫画の存在感ない設定もバカにできたものではない。その辺の野に咲く花の方が余程存在感がある。
「2組の桐原でーす。よろしくね〜」
「3組の黒子です」
黒子くんはこちらを見てそう薄く微笑むと、スクールバッグの中からブックカバーで覆われた分厚い単行本を取り出す。
「単行本派なんだ〜」
「いえ、むしろ文庫の方が好きです。単行本だとこうして座って落ち着いていないと読みづらいですから」
「私も文庫派。単行本が文庫になるの待ってるうちに忘れてて数年後に気付いたら文庫本になってるとかあるよね」
「僕はあんまりないです、それ」
「ないか〜」
一見どこにでもありふれている絶妙な浅い会話。だがそれをジャンプ主人公としている事に意義があり、価値もある。
やばい。絶対黒子くんはそんな楽しくないのわかるしむしろ今本読みたいだろうけど、めちゃくちゃ楽しい。もう少しだけ空気が読めないフリをする事をどうか許してほしい。
「ねえそれ何読んでんの?」
「ハリー○ッターです」
「おもろいよね、ちゅ……小学生の時読んだな〜」
「中3の時謎に一気に読んだな〜」と言いかけたのを慌てて飲み込み歴史を改竄する。
「ハ○ポタってなんかアズカバンまでは楽しい魔法学校生活って感じなのに炎のゴブレットから急にめちゃくちゃ重い話になるよね 人ボコボコ死ぬし」
「そうなんですか?」
「え、今読んでるの何?」
「秘密の部屋です」
「ごめん本当」
しまった。楽しさで勢い余ってハ○ーポッターのふんわりとしたネタバレをしてしまった。
焦りと罪悪感を顔に滲み出していた私を見て、黒子くんはその幼さが残る顔に大人びた笑みを浮かべながら「気にしないでください」と落ち着いた声色で言った。
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牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時