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こんなにハッキリと顔を見たのは初めてで。
たまたま家を出るタイミングが重なったときや、家に帰るタイミングが同じだったときに、「あ、」とお互いに気まずく目を合わせるぐらい。
エレベーターで一緒になったら、いつも「どうぞ」と先に譲ってくれるぐらい。
そんな、浅い微妙な関係。
ちょっとかっこいいな、と軽く思うくらい。
その浅い感情の隙間に現れたわだかまりは、この人の顔に問題があった。
ちょっとじゃなくて、相当綺麗な顔をしていたことを知らしめられた。
「・・・あ」
綺麗な顔、と無意識に眺めていたとき、涙でグチャグチャになった顔をしているのをすっかり忘れていたことに気付く。
やばい、恥ずかしい・・・
私は反射的にパッと両手でお隣さんに見られないようにと顔を隠した。
…けど、そんな私の無駄な抵抗もあっけなく砕かれたのは、彼のまたもやデリカシーのない言葉。
「彼氏に捨てられた？」
ズキッ！と見事なほどに私の傷ついた心に刺さる言葉を、爽やかな顔をしたまま冷淡に口にした彼。
私はパッと隠した両手を取り、キツくその顔を睨んだ。
デリカシーのない男なんていくらかっこよくても最悪なんだから。
「・・・てか、いつまでこうしてればいい？」
「あ！ご、ごめんなさいっ！」
キッと睨みつけていれば、彼はふっと鼻先で笑いながら私を見返した。
抱きしめられたままの状態だったことを、今更恥ずかしく思い、思わずポッと顔が火照る。
なにしてんの私・・・
そんな私を見た彼の顔はビックリするほど甘く、だけど氷のような冷たさが苦かった。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2017年12月22日 18時
