105話「そういうことにして」 ページ5
「助っ人に呼ばれた」
「それだけで説明つかねーっての!」
会場から出て、少し早めの夕食を食べにファミレスに来た。マジバは最近食べたばかりだし、何より知り合いに合いそうな気がしたからだ。
席は運良く、周りに誰もいないところだった。
そして注文を終えて、話し始めたところだったが。
パン!と先程と同じように頭を叩かれる。叩かれたところを反射的に抑えた。痛い。
「やめて高尾くん。バカになる」
「安心しろ。お前、結構馬鹿だぞ」
「ぜっったい火神くんにだけは、言われたくない」
火神くんを睨みつけるも、彼は言うだけ言って、サラダバーに行ってしまった。火神くんの隣にいた黒子くんは、既にドリンクを取りに行っている。よりによって同じ学校の味方がいなかった。
「……なぜお前が、あの海王みちると天王はるかと一緒に歌ってたのだよ」
「昔から色々助けてもらった……友達で、今は一緒に住んでる。家族」
緑間くんの質問にも答える。どうせあの二人にも誠凛男子バスケ部にもバレてることだ。ここで隠す意味もない。彼はそれだけ聞くと、そうか、と納得して立ち上がった。ドリンクバーに向かうのだろう。
「スリーライツとはどういう関係なんすか!今モデルの仕事取られるって先輩が怒ってたんすよ!?」
「いや、スリーライツと歌ったのは初めて」
「初めてぇ!?!?」
今度は黄瀬くん。かなり興奮している。しかも後半は私にとって何も関係ないことだが、彼はずっとそれをモデルの先輩から聞かされてきたんだろうなと思うと少し気の毒だ。
「意味がわかんねーっすよ……」
私の回答に、彼はテーブルに突っ伏してしまった。高尾くんも丸めたパンフレットを未だに握りしめながら大きく頷いている。
「それな。……つか明星ちゃん、あんなに歌うめーのな。ほんとにバスケ部だったん?」
「うん。歌は…………、」
高尾くんの質問に答えようとして、言葉が詰まった。
私は今、何を言おうとしていたのだろう?
「……歌は…………中学校の時にガチな先生がいて、その人に教わってたからじゃないかなぁ」
「それ信じられると思ってんの?」
「高尾くん」
彼の追及を遮るように名前を呼んだ。近くにいた黄瀬くんも、私の声に驚いて顔を上げた。
「そういうことに、しておいてくれるかな」
「…………じゃ、次の土日にストバスでちゃらにしといてやるよ」
「……仕方ないなぁ」
「え!!俺も参加したい!」
やっぱり2人は空気が読める、と心の底から安心した。
106話「腹ごしらえするために食べてません」→←104話「変な人」
61人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時