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132話「今はそれでいいよ」 ページ32

「おいお前!」
「な、に」

スターシードがもとに戻って、化け物だった人をベンチに寝かせた。
急いで戻らなければ、とそのまま姿を消そうとすると、声を掛けられる。
もちろん青峰君だ。

「……俺は、……」
「……うん」
「信じて、ねえから」

青峰君の瞳は、まだ濁っている。

「俺より強いやつなんか、……いねえんだ」
「いいよ」
「は?」
「今は、それでいいと思う」
「……意味わかんねえ」
「それにいったじゃん。現れなかったら、私がなってあげるよ」
「本気で言ってんのか」
「うん」
「……お前、女だろ」

疑いの目を向けてくる青峰君。でもその瞳の奥にわずかに、希望が見える。
その光を見て、安心した。

「性別ってそんなに大事?」
「いや、それは、そりゃ、そうだろ」

何言ってんだ、と言わんばかりの顔をする。

もちろん、世間的には彼の反応は間違っていない。
けれど、私はそれを全く気にせず話を続けた。まるでそれが、問題でないかのように。

「バスケのうまさと性別、関係あるの?」
「……体の大きさとか、力とかいろいろあんだろ」
「じゃあそれすら解決しちゃえばどうにもなるね?」

青峰君が驚く。

「ほら私、こんな姿だし。さっきみたいな化け物もいるし。……世の中、常識なんて案外いつでもぶっ壊れるもんだよ」

変身を解く。誠凛高校のセーラー服に身を包んだ私を、青峰君は呆然と見つめる。

「おいアケホシ」
「時間の問題だったし、青峰君がこの先変身後の私を探そうとする可能性を潰すためだよ」

シリウスが出てきた。勝手に変身を解いたことを怒っているようだが、理由を説明すると黙り込んだ。まあこの猫もそれはわかっていて、一応怒らないと、と口をついて出たんだろう。

「お前……」
「初めまして。誠凛高校バスケ部マネージャーの、明星Aです」
「……マジか」
「とりあえず試合急がない?」

会場の方を指差すと、青峰君はあ、とつぶやいた。

「……何がなんだがわかんねーけど、とりあえず試合か」

その辺に落ちていた自分のバックを拾って、私は青峰君と走り出した。

「やっぱり青峰君早いねえ!私も結構全力で走ってるんだけど」
「ついてこれてんのが意味わかんねえよお前!!ホントに女か!?」
「一応女!ほら見て、スカート履いてるじゃん!」
「……ああクソッ!聞きてえことが山ほどあるんだけど!」
「試合終わった後ならいいよ!」
「約束だからな!?」

道中そんな話をしている青峰君は、少しだけ、楽しそうに見えた。

133話「敗北⇔勝利」→←131話「私がなってあげる」



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作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php  
作成日時:2023年10月22日 1時

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