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104話「変な人」 ページ4

※黒子視点

明星さんは、変な人だ。

人間観察が癖になっているからか、周りと違う人を見ると勝手に目線が行くようになっていた。
だから、入学式の時に彼女に視線が行くのは当然だった。

式が行われる体育館への行列に溶け込んで、彼女は何事も無かったかのように歩いていた。

逆にそれが、僕の興味を引いた。
後ろから、話しかける。

「随分と遅い登校でしたね」

「うわっ」

彼女は驚く声を上げたが、僕は気づいてしまった。
声や跳ねた方に反して、実は全然驚いていないことに。
振り返った瞳に、動揺の色が全くなかったことに。

驚かせたことを謝る。わざとだ、なんていうほど僕らは関係は出来ていなかったから。

「明星、A。よろしく黒子くん」

でも、彼女のどこか不思議な、目を引く存在には、ずっと引っかかっていた。

「黒子くん、私の眼見て」

それが確信に変わったのは、化け物に襲われた時だ。
不思議な服に身を包み、キラキラしたステッキのようなものを手にした明星さんは、僕の名前を呼んだ。
彼女の眼を見ると、きらきらと星が舞っていた。とにかく綺麗で、恐怖も忘れて僕は見入った。

死ぬかもしれないという、生まれて初めての恐怖がそこにはあったけれど、思考にヒビが入る。
目の前の彼女なら、助けてくれるのではないかと。
それは、希望だった。

「たすけて、」

「うん」

明星さんは、大きく頷いて、ステッキを強く握る。そこから溢れる光に、目を閉じる。
全身が暖かい力に包まれた。

そこからは、知っている通りだ。彼女は秘密をうちあけ、僕らはそれを信じている。

「アイツな。初めてなんだ。……ああやって歌うの」
「え?」
「いい声だろ」

ライブ中に過去に思いを馳せていると、シリウスの声がした。猫なのに人間のように自慢げだ。そして、僕に明星さんと会ってくれたことに感謝すらする。

「俺は、もうあんなアイツを、これ以上見たくねぇ」

さらに、過去に何かあったことまで口を滑らせる。知りたかったけれど、猫はそれ以降口を閉ざしてしまった。

本当に、明星さんとは思えないくらいきれいな歌だ。
だけど。聞いているうちに、まるで電池切れをおこして針が動かなくなる時計のように。
その違和感は、やってきた。

「…………なんだ、これ」
「お、気づいたか」
「何だこの歌。気持ちわりぃな」
「火神もそう思う?」
「高尾もか」
「明星っち、なんか、機械みたい」
「不本意だが黄瀬に同意だ」

シリウスは、寂しく微笑むだけだった。

105話「そういうことにして」→←103話「視線を集めるあの子」



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作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php  
作成日時:2023年10月22日 1時

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