128話「資格も自由もないの」 ページ28
「……不思議ですね」
黒子くんは、キセキの世代の話も、色々聞かせてくれた。私はただ黙って話を聞いていた。ひと通り話した黒子くんは、私の顔をまじまじと見つめる。
「何が」
「明星さん、やっぱりというか、あんまり驚かないですよね」
「中学時代に何かあったんだろうな、というのは感じてたし、緑間くんとの戦いで言ってたことを思い出すとね」
さっき聞いた中学時代の話と、ワンマンプレーをしようとした火神くんに掴みかかった件が頭に浮かぶ。点と点を繋ぐのは簡単だった。
「名探偵ですね」
「体もついでにちっちゃくなっておくか」
「本当にやりそうなのでやめてくれませんか」
ふざけると、黒子くんは少し笑う。さっきまで無表情だったから心配したけど、思ったより大丈夫そうだ。
「そういえば、明星さんはバスケ部だったんですよね」
「…………うん。そうだね」
話題の矛先が自分に向く。黒子くんが聞きたいことは、何となくわかった。
「バスケは、好きですか?」
「…………ごめん、答えられない」
その言葉を聞いた途端、胸が締め付けられた。みしみしと心臓や肺が無理やり縮むような感覚がして、歯を食いしばった。
「ちょっ……え、明星さん……?」
「ごめん、くろこくん。いえないの」
「分かりました。言わなくていいです。あの、救急車とか」
「よばなくて、いい」
はぁ、と息を吐く。焦った黒子くんが言わなくていいと言った途端、胸の締め付けが無くなった。ああ、分かりやすい、と抑えていた胸から手を離す。ドクドクと素早く血液が体をめぐる音がした。
「……わたしね、もうないの」
「なにが、ですか」
「人とバスケをする、資格も、自由も、ないの」
「……なんで、」
「いまはいえない」
私は未だに、罪を償い続けている。
私と黒子くんはその後無言で体育館に向かう。そして、火神くんの怪我の悪化が判明したのだった。
なんだかその日は、空気が悪くて、笑えなかった。
*
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
試合当日。玄関でお見送りをしてくれたのはせつなさんだった。時計を見る。今から行けば、15分くらい早く集合場所に着く時間だ。玄関のドアを開けようとして、振り返る。
「そういえば、女子の試合も撮っておいてよ」
「はい。この間と同じ学校ですね」
「うん。あ、元気ならビデオ消していいから」
「そんな……前のチームメイトで、友達はないですか?」
チームメイト、かぁ。
「キツイ冗談だね。……私が壊したのに」
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作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時