127話「なんでもないよ、君にとっては」 ページ27
「こんのバカ神！！あんたバスケしたわね、怪我、悪化してるじゃない！」
はい、今日はリコ先輩の恐ろしい怒号からお送りします。
火神くんは私たちが居ない間に青峰くんという桐皇の人とバスケをしたようだ。プールでの桃井さん乱入の間にひっそりと抜けているのは気づいていたが、まさかそんな事になっていたとは。
リコ先輩は怒りを抑えられない様子で私に指示を出す。
「Aちゃん、見張ってて！」
「はい」
断る選択肢はなかった。
「あれ、大人しいね」
「お前から逃げるのは無理だからな」
火神くんは言われた通り、保健室に湿布を逆立ちで貰いに行く以外、動かなかった。
ベンチに座って大人しくミニゲームを見ていたので、タオルを持ってきたときに話しかけると、そんなことを言われる。
「なんか、失礼じゃない？」
「事実だろ。お前、黒子にもあんまびびんねーし」
「え、」
「今でも俺はびびってんのに。後ろから話しかけられてもいつも通りだろ。……そんなやつが俺を見逃すわけねぇ」
そうだった。黒子くんは人より影が薄いから、本当なら驚いていなければおかしいんだった。
私はというと、セーラー戦士の影響もあってか黒子くんの気配は普通の人より薄いな、とは思いながらも感じられるため、特に驚くこともなくて。
ううん。普通って難しいかもしれない。
「……明星？」
「あ、ごめん。なんでもないよ」
「嘘つけ」
火神くんの早く言え、と言わんばかりの顔から目を背け、タオルを置いた。スポドリもクーラーボックスから出して、あと20秒で終わる試合を見ていた。
普通の人間って、女の子って、なんなんだろう。
「無視すんなよ！」
「別に無視してるわけじゃな」
「はい！休憩してね！」
リコ先輩の声で、コートにいた人が戻ってきて、この話は自然と終わりになった。
決して、無視している訳では無い。
火神くんにとっては、なんでもない事だから、言わないだけだ。
＊
「青峰くんは、変わってしまったんです」
時は少し遡り。桃井さんと別れたあと、黒子くんは私に青峰大輝という男について、話してくれた。なんでも彼は黒子くんの中学時代の相棒で、誰よりもバスケが好きだと言う。
だけど、勝利と才能が彼を狂わせてしまった。目を閉じて語る黒子くんは、見ているだけで苦しくなる。
「……僕は、……青峰くんに、勝ちたい。勝って、楽しいバスケを、して欲しいんです」
「そう、なんだ」
私はその話を聞いたとき、相槌を返すだけで精一杯だった。
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作者名：白咲ナナ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時：2023年10月22日 1時
